第二十八話『言われない話』

2/6
前へ
/250ページ
次へ
 飯島とはあれ以来、みる香と檸檬のグループに入ることになり、三人で仲睦まじく学校生活を送っている。  人数が奇数だからといって不便に思うことはなかった。三人共が思いやりを持ち、気配りをしているからだ。みる香は新たな関係性に満足していた。  そして危惧していたみる香のあの日の噂は、なぜか出回ることがなかった。不思議なのだがきっとバッド君や桃田の二人が何か手を回してくれたのだろう。  二人に尋ねても誤魔化されるため、実際のところは分からないがなんとなくみる香はそうなのではないかと確信を持っていた。  バッド君はあれから何故か『悪魔の半藤』と呼ばれるようになり、一部の人間から怖がられていた。  みる香を助けた際に第三者が感じた恐怖をそのまま表しているのだろうが、客観的に考えてもバッド君が恐ろしいことをしたとは思っていない。  確かに普段の爽やかな雰囲気はあの時の彼になかったが、あれはみる香を庇っただけに過ぎない。  何故みんながそこまでの恐怖的な印象を抱いたのかは謎だった。  バッド君の噂が出回りクラスメイトから遠ざけられるようになっていても、彼は全く気にしていない様子で普段通りマイペースに学校生活を送っていた。  噂に憤ることもなければ、悲しそうにする様子も見えない。本当に無関心のようだった。  みる香は自分のせいでそのような噂が広がったことを申し訳なく感じていたが、それを言う前に彼から「みる香ちゃんの事だから気にしてると思うんだけど、人の関心とか気にしないから大丈夫」だと予め言われていた。そう言われてしまってはみる香もそれ以上は何も言えなかった。  しかしそんな心配もすぐに消えることになる。また暫くしてから彼の周りに人が戻り始めたのだ。  これはバッド君の人望がいかに大きいのかをよく実感した瞬間だった。みる香は素直に彼の社交性の高さに感心した。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加