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文化祭から数週間が経ってもクラスメイトから余所余所しい態度を取られることは未だにあったが、普通に挨拶してくれる者も少なからずいた。
あの状況がみる香を苦しめたことは事実だが、だからといってただ静観していただけのクラスメイト全員を責めたい気持ちは正直なかった。止めようにも止められない人間だっているだろう。
それに、自分が止めたことで後に自身の立場が危うくなるからと考えた者もいるはずだ。人間とはそういう生き物だ。
みる香だって逆の立場だったら、きっと助け出すことは出来なかった。自分が近い将来危険な立場になるなら助けたくても足がすくんでいたと思う。
だからこそあの状況で、スーパーヒーローのように助け出してくれたバッド君は尊敬に値する。
彼の動きには一切の迷いなく、本当にファンタジーの中のヒーローそのものだった。
あの時こそはそんなことを考えている余裕などなかったが、今思い返すとあの瞬間だけは自分もまるで物語のヒロインになったようなそんな気分になる。
そんなことを思いながら校舎に入り、下駄箱に向かうと見慣れた姿の飯島もとい颯良々の姿を見つける。
「おはよう! さらら!」
下駄箱でばったり出くわした颯良々に声をかけると彼女は眼鏡を持ち上げながら「おはよう、みる」と挨拶を返してくれる。
数週間関わりが増えて分かったことは、彼女は自分というものを持っているということだ。人に流されず、自身の信じることだけを信じる。
そんな姿勢がかっこいいとみる香は思う。
二人で仲良く談笑しながら廊下を歩いているとバッド君が後ろから声をかけてきた。
「おはよう二人共。天気いいねえ」
「おはよ」
「バッド君、おはよ」
みる香と颯良々の後ろにつく形で歩き始めたバッド君の気配を感じ、距離はあるものの真後ろに彼がいることが何だか照れ臭い。
みる香は僅かに赤らんだ頬を誤魔化すように話題を切り出した。
「そういえばバッド君、前に桃ちゃんから聞いたけどこの間先生から面談室で説教されてたんだって?」
これは文化祭の時の話だ。桃田からそれを聞いていたみる香は、彼の授業放棄などがすぐに頭に浮かび、納得をしていた。
バッド君は成績こそは良いのに授業体制だけは不真面目だ。それはみる香もよく知っていることだった。文化祭以来はテストが近いせいか、きちんと授業に出ている様子だったが、またいつから授業を抜け出すか分からない。
授業をよくボイコットする彼の姿勢はそろそろ改めた方が良いのではないかとお節介ながらに思っていたみる香はそのままバッド君に言葉を続ける。
「いい加減、授業はちゃんと出たら? バッド君、成績はいいのに」
そうは言ってもきっと彼のことだ。笑って誤魔化されるのがオチだろう。
期待はせずにとりあえず助言してみたみる香は彼に目を向けると、バッド君は意外な反応を見せた。
「うん、もうそういうのはしないよ」
「えっ」
あまりに予想外な切り返しにみる香は思わず足を止めた。バッド君も足を止めたが、一瞬遅れて止まったためみる香との距離が縮まる。
その距離感に更に驚いたみる香は瞬時にしゃがみ込んだ。
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