第二十九話『隠す』

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 思い返せばダブルデートで見極めの儀が行われ、バッド君と本契約を(おこな)った時も、みる香が何気なくこれまでの七人の契約者の話を尋ねた時のみんなの反応はどこかおかしかった。あれもきっとそういうことなのだと今なら理解できる。  そして桃田が言っていたバッド君がみる香に話していない事というのは間違いなくこの事だろう。  彼女の言い方からして、契約した際すぐに話すべき必要事項だったのだと思われる。  彼が何故、みる香にこの話をしないのかは分からない。  しかし必ず言わなければならない日が来るのだろうとは思う。  それはきっと、契約を解除するその時なのかもしれない。  悲しくて、辛い気持ちは正直大きい。バッド君を好きで、温かくて優しい気持ちになれる彼へのこの感情を忘れてしまうのかと思うと正直ゾッとする。けれど――――受け入れるしかない事もよく理解している。  みる香も憶測でしか分からない。しかしサポートをした人間の記憶を消すことでこの天使のサポートシステムは成り立っているのだろう。  記憶を消せば、天使の存在が他者に知れ渡ってしまうリスクを軽減できるからだ。  それなら、それに逆らうことなどできないししたくもない。みる香は現に、天使であるバッド君から多くのサポートを受けてきた。かけがえのない友達と呼べる存在を半年間だけでたくさん得られたのだ。文句など、言えるはずもない。  ここまで考えついたみる香が思うのはただ一つだけだった。  契約が終わるその時まで、彼とたくさんの思い出を作りたい。友達としてでいい。  どうせ記憶を消されてしまうのなら、みる香は想いを伝える事はしない。伝えても自分が忘れてしまう想いだなんてそんなのは虚しい。自分の中で楽しみ、この初恋を終えよう。そう決意した。  バッド君に気持ちを伝えないもう一つの理由はこれだった。みる香は彼に自分の気持ちが露見しない努力をすることを心に決めていた。
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