第三十話『嫉妬心』

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「ど、どうしたのバッド君」  照れ隠しにそんな言葉を出すとバッド君は涼しげな顔で「せっかくだから自己紹介しようよ」とD組の女の子達を見回しながら提案した。  バッド君は、みる香の友達作りを今回この場でも考えてくれていたようだ。その意図を知り、嬉しさが増す。  バッド君の提案を耳にしたD組の女の子達は三人で顔を見回しながらも頷いてくれた。  そして自己紹介タイムになり、五人で談笑まじりに名前を名乗る。  三人共、思っていた通り話しやすい子達でみる香も普段より上手く会話ができていた。  会話が弾み、そのまま二人の子と話を続けていると、バッド君は一人の女の子と隣で別の話を始める。その様子がなんだか気になったみる香は二人の女の子との会話に集中ができなくなっていた。  バッド君と女の子は楽しそうに笑い出し、そんな姿を真横で聞いていたみる香は心に妙な感覚を覚える。気がつけば二人の笑い声を聞くのが嫌になっていた。  この感情を経験した事はなかったが、それは過去にたくさんの友達を持つ人物に対して感じたそれと少し似ていた。嫉妬しているのだろう。  バッド君と楽しそうに話す女の子に対して嫉妬しているのだ。それが分かったとはいえ、嫉妬心を抑える事はできずトイレに行ってくると言葉を残し、その場を離脱した。  そのままトイレを済ませ、みんなのいる場所へ戻らなければと思いながらも気分が乗らない。せっかくバッド君が設けてくれた友好の場を素直に喜べない自分に嫌気が差してきたのだ。  そして同時に消すことの出来ない嫉妬心にも気分は下がっていた。この恋は楽しい気持ちで終わりたいだけなのに、自分の感情をコントロールできない事がみる香の心を次第に暗くしていく。  みる香は柿枝と栗井を思い出した。柿枝はともかく少なくとも栗井は、バッド君と仲の良いみる香に嫉妬しているところがあったように思える。  あの日はそんなことに頭が回らなかったが、あれが嫉妬心からくるものだというのなら、自分の今のこの感情も爆発してしまえば彼女たちと同じ行動をとってしまうかもしれない。――――それは嫌だ。 (あの女の子……長谷川(はせがわ)さん、良い子だった)  バッド君と楽しそうに会話をしていた長谷川は裏表のなさそうな本当に柔らかい雰囲気を持つ可愛らしい女の子だった。  自己紹介の時にもみる香の名前を復唱し、よろしくねと手を差し伸べてくれた。そんな彼女の言葉に胸がジンと熱くなるのを感じた。  しかしそんな長谷川と心から友達になりたいとは思えなかった。  その理由は不明だが二人のお似合いとも言えるあの雰囲気を目の前で見ているのは苦しかった。 (会話の邪魔はしたくない……でも、見てるのも嫌だなあ)  ため息を吐いたみる香はトイレのドアに背中を預けたまま動けずにいた。  自分の恋が叶わないのは心から理解しており、希望を見出していないのも嘘ではなかった。  しかし分かってはいても、好きな人が他の人物と仲が良いところを見るのは胸にくるものがある。それを今日、身を持って思い知らされていた。
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