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「それでも自分が嫌な人間だと思うのは、あなたが優しいから。実際に思っているだけで危害を加えたりはしていないでしょう? 嫉妬心はね、行動に出ると怖いものだけど、内に秘めているだけなら何もおかしな感情じゃないの。勿論、誰かに話を聞いてもらうのは大事よ。でもどう? 私に話したことで、少しは楽になったんじゃないかしら」
桃田の言う通り、確かに話したことで少し心のモヤがおさまった気がする。それに、自分のこの黒い嫉妬心が悪ではないのだと否定してもらえたことで安心感を得ていた。
「私もね過去に彼氏に近づく女にものすごい嫉妬心で狂いそうになったことがあったわ」
「え、桃ちゃんが?」
「ふふ、そうよ。みる香ちゃんには話してしまおうかしら」
桃田はそう言って過去の話をしてくれた。
彼氏と付き合い始めた時に、彼氏を狙う女が現れ、嫉妬でしばらく苛立ちが収まらなかったという意外な話だ。彼女にもそのような経験があったのかとみる香は驚く。
しかし桃田の意外な一面を耳にしたみる香は彼女に親近感を覚え、またひとつ桃田の事を知れた事が嬉しかった。何より、このような話をみる香に教えてくれる桃田が、どれだけみる香の良き友達としていてくれているのかを実感していた。
桃田の話を聞き終えると彼女は「そろそろ戻らないと探されそうね」と口にする。
スマホで時間を確認すると三十分ほど離脱をしていたことに気がつく。
みる香もそうだねと同意し、渇ききった涙の跡を確認すると桃田に顔が変じゃないかと質問をした。泣いたことがバレないかどうかの確認だった。
すると桃田は口元を緩めながら「大丈夫よ」と答えてくれる。その言葉に安心したみる香は桃田と二人で会場に戻り始める。
場は盛り上がっていたため、三十分程度の離脱なら誰も気に留めてはいないだろうが、みる香は自然と早足で会場に向かっていた。
もう重い足取りではないことに気が付き、桃田に話して良かったと心から感じていた。
第三十話『嫉妬心』終
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