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第三十一話『心境』
* * *
「桃田」
ハロウィンパーティーも中盤に入った頃合いに同期である桃田に声をかける。今、二人は人気のない廊下にいた。
「何?」
桃田は相変わらず素っ気なく言葉を返す。その態度に不満などは全くないが、今回は一つ、彼女に対する不満を持っていた。半藤は前置きは抜きにして直接的に問いかけた。
「さっき結界張ったよね、みる香ちゃんも一緒に」
すると桃田は長く下ろした髪の毛を掬い上げながら「張ったわ」と口にした。
そして半藤を軽く睨みながら再び言葉を続ける。
「何よ? 不満?」
「不満だよ、ていうか…みる香ちゃんは俺の契約者なのにさあ」
そう口にし、半藤は自覚する。これは嫉妬だと。契約者である自分を差し置いて、桃田がみる香を結界で隠した事実に嫉妬しているのだ。
半藤の返答を耳にした桃田は呆れた顔で声を返す。
「何そんな小さいことで妬いてんのよ。みる香ちゃんにだってプライバシーはあるのよ? あんた、境界線忘れてるんじゃないでしょうね」
彼女はそう言うともう一度半藤を睨み見つける。桃田の言うことは最もなのだが、なんだか腑に落ちない。
「……君たち、内緒話でもしてたの?」
そう尋ねると桃田は先程よりも心底呆れた様子で「詮索してくる男って本当にキモいわ」と暴言を口にした。
そのまま半藤に背中を向けて歩き出すが、その背中に向かって半藤は言葉を投げた。
「そういえば桃田、わざと長谷川さんを選んだとか言わないよね」
長谷川が半藤を好意的に見ていることは知っていた。直接言われたわけではないが、こればかりは経験からくる感覚だった。
それに彼女の好意は分かりやすい。今回彼女を誘ったのは桃田であり、なぜわざわざ半藤に思いを寄せる女を参加者に選んだのかは気になるところであった。
そのため桃田には彼女を誘った意図を確認する必要があった。すると桃田は盛大なため息を吐いて半藤の方を見る。
「……誘った次の日に、あんたに落ちたみたい」
「ああ、そう……タイミングって凄いねえ」
桃田の話によると彼女を誘ってから参加の返事をもらうと、偶然にも長谷川は半藤に一目惚れをし、初恋を覚えた長谷川はそれを桃田に話してきたようだった。
そしてこれまた偶然なことに、ハロウィンパーティーの参加メンバーに半藤がいる事を知った彼女はまたもや桃田に半藤について質問をしていたようだ。質問の内容は聞かなくともそれとなく想像ができる。
半藤は後頭部を掻きながら桃田に言葉を向けた。
「まあそれなら仕方ないけど、みる香ちゃんに害ある奴はもうごめんだからさ」
「それは同感よ。でも長谷川さんは性格がいいから、あんなことにはならないと思うわ」
「なってからじゃ遅いんだよ。変な動きしてたら直ぐに知らせてね」
声色が変わったのが自分でもわかる。無意識ではあるが、みる香のことになるとどうにも自分の中の温度が変わる。彼女が苦しい思いをするのは絶対に避けたいところだった。
桃田は当然だとでも言うかのように半藤を見返すと今度こそそのまま会場の中へ戻っていく。
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