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(みる香ちゃん、今日はちょっと……いつもより調子が良くなさそうだったなあ)
廊下に一人残った半藤はみる香の事を思い浮かべていた。今日は契約者の特権で彼女の動向を見守っていた。
だがなぜかみる香の様子はいつものような元気さがどこか薄かった。
気になりタイミングを見計らって話し掛けようと思っていたが、彼女はいつの間にか会場から離脱し、桃田の結界で動向も読めなくなる。
桃田が危害を加えることはないと分かっているものの、やはり結界を張られたことは面白くなかった。もっと早く行動しておけばよかったと悔やんでいた。
桃田の結界が解除され、戻ってきたみる香は先程よりは元気を取り戻したようだったが、本心では彼女に直接聞きたい気持ちが強く、少しでも明るい気持ちになって欲しいとそんなことばかりを考えている。
だがその事に関して話を聞くことは躊躇われた。尋ねることによって元気を取り戻した彼女を再び暗くさせてしまうのは嫌だからだ。
半藤は基本的に他者を信用していない。例外はあれど、信じられるのは自分と、大切な存在のみだ。
長谷川が脅威的な存在に感じないのは半藤も同意見だが、絶対的にそうであると断言することはなかった。
それは半藤が長谷川を信用していないからだ。信用していない以上は彼女がみる香に害を与えないとは限らない。ゆえに警戒する必要はある。
半藤は自分の女関係でみる香に悪い影響を与えていることを自覚しており、それに対しての自身への怒りや関係するもの等への憤りを感じずにはいられなかった。
半藤が自分に対して怒りを感じることはこれまでの人生で一度としてなかった。
何より本気で恋をした相手にさえも、自分以上に誰かを大事に思ったことなどなかった。
自分さえ良ければそれでいいのだと、そう思いながら生きていた人生だったのだ。
しかし今は違った。みる香への己の気持ちを自覚してからそれは過去の感情へと変わっている。
今はとにかく、みる香を第一に考え動いていた。
「今日はみんなありがとね、また月曜日」
飯島のその言葉でハロウィンパーティーは終わりを迎えた。
外は暗闇に染まり、時間は夜の七時になっていた。
半藤はみる香を遠目から見ながら彼女の行動に意識を向ける。どうやら夕日と桃田の三人で帰宅する様子だ。
ここで半藤が共に帰るという選択肢もあったが、みる香はいつになく楽しそうだ。せっかく楽しそうなところを邪魔するのは気が引けた。
他人を気遣う性格ではない半藤だが、みる香に関してだけは話が違っていた。
(また明日ね)
テレパシーを送るでも声を出すわけでもなく、半藤はそう心の中でみる香に声をかける。
彼女の楽しげな表情に満足した半藤は大人しく一人で帰路へつこうと会場のメンバーに笑顔で別れの言葉を告げて城とも呼べそうな家から外へ出た。
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