第三十一話『心境』

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「す、好きじゃなくても……わたしを遊び相手って思っててもいいの! 本気になってくれなくて良くて……その、半藤くんはロングヘアの子が好きって聞いて……だから少しはわたしにも可能性があると思って…遊びでいいから付き合って欲しいです!!」  このような告白は実は初めてではない。半藤はこれまで数多の女と交際をしてきたが、その中で告白をされて付き合ったこともあった。  それは勿論、好みの外見をしていた場合だけ告白を受け入れていたのだが、今回のように告白を断ってもなお諦めず、食い下がる女の告白でそこまで言うならと恋仲になる事も実際にあった。  そのため、好みでなくとも諦めず告白をしてきた女とは交際をスタートしていた。  これまでの経験から考えると、今のこの状況では告白を受ける、というのが本来の半藤である。  しかしそのような選択肢はもはや存在しなかった。  今の半藤の心境が、これまでとは全く異なるからである。  半藤は先程よりも顔の赤らみが増した長谷川に目を合わせて再び言葉を返した。 「君の気持ちに応えることはできないな」  長谷川は悲しそうに半藤を見上げる。しかし半藤は慰めの言葉などはかけず一番重要な言葉を続けて放った。 「俺にもどうにも出来ないほどに、好きな女の子がいるんだ」  半藤はその女の子の顔を思い浮かべる。  それだけで気持ちが明るくなり、幸福感が生まれる。不思議なこの感覚に半藤は堪らない愛おしさを感じていた。目の前の長谷川には靡く隙もない程に。 「だからごめんね。俺の事は諦めて欲しい」  その言葉を最後に、長谷川は頭を俯かせ、小さくわかったと声を出すと半藤の前から立ち去っていった。  彼女の背中を見送る事もなく半藤は空を仰いだ。暗闇の中には数多の星が広がり景色が良く、風も心地よい。  半藤は視界を人気のない歩道に移すとそのまま自宅へと足を向けた。 * * * 第三十一話『心境』終                 next→第三十二話
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