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第三十二話『親しい異性』
翌日になりみる香はいつもより遅く目を覚ます。昨日は檸檬と桃田の三人で一緒に帰り、せっかくだからとカラオケに行くことになった。
家に帰ったのは夜の九時だった。とても楽しく終始盛り上がったのだが、久しぶりの遅い帰宅で身体は疲れ、今日はギリギリの時間まで寝てしまっていた。
「行ってきまーす」
みる香は軽くご飯を胃の中に入れるとすぐに自宅を出た。それほどまでに時間が迫っていたからである。遅刻にはならないことだけが救いだ。
「おはようみる香ちゃん」
「バッド君、おはよ」
自宅を出ると門の前でバッド君が待っていた。みる香は高鳴る気持ちを隠しながら彼の元へ足を進める。
バッド君がアポなしでこうして待ち伏せしていることは今に始まったことではないが、最近は前よりも増えている気がする。それも作戦目的ではなく、だ。
気持ちを自覚してからはそれが嬉しく、内心期待している自分もいた。
バッド君は相変わらず爽やかな笑みでみる香を見つめながら他愛もない話をして一緒に歩き出す。
「昨日は楽しめた? 俺たちはあんまり話せなかったね」
バッド君は昨日のハロウィンパーティーの話を持ち出してきた。
彼の言う通り、昨日はあまり彼と話をしていない。たくさんの友達と交流することは出来ていたが、バッド君とだけはこれといった思い出を作れていなかった。
「うん、楽しかったよ! 桃ちゃんが呼んでくれた平井さんとは連絡先交換した」
「それはよかったねえ〜みる香ちゃんの友達も段々増えてきて半年前が嘘みたいだね」
バッド君の言葉でみる香は改めて考える。本当にその通りだ。半年前のみる香には想像もできなかった数々の楽しい出来事が、今は起こっている。
「それはそうだよね、ほんと……今でも夢みたいだよ」
みる香はそう同意の声を漏らすとバッド君の横顔を見た。
彼には感謝の気持ちと、それだけではないもう一つの大きな感情がみる香の心に浮かび上がる。
彼はみる香の視線を感じたのかこちらを見てから柔らかく笑いかけてきた。
「これからも君ならきっと新しい友達を作っていけると思うよ」
「うん、そうだといいなあ」
みる香はそう言うとバッド君を見上げた。自分の頭のあたりにある彼の肩は思っていたよりも大きく、そんなことに初めて気がつく。そのままみる香は言葉を続けた。
「バッド君とも親しくなれてると思うんだけど、これって思い上がりじゃない?」
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