第三十二話『親しい異性』

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 自分だけが勝手に彼と親しいと感じているのではないかと懸念していた。  夏休み前に友達になりたいと言ってくれてはいたものの、どこまで境界線を引くのが正しいのか分からない。  みる香は少し大胆な質問を口にした照れ臭さから彼と合わさった目線を横にずらしていると真横から彼の言葉が発せられてきた。 「全然思い上がりじゃないよ。そう言ってくれて嬉しいな」  その一言で……いやその一言が、みる香の胸を熱くした。嬉しい。  みる香は「良かった」と口に出し、幸福感に駆られながら足を進めているとバッド君は再び言葉を告げてきた。 「俺もね、みる香ちゃん」 「え?」  バッド君はそう言うとみる香の右腕を引いた。反動的にそちらへ振り向くみる香をやけに真剣な眼差しで見つめるバッド君はいつもより大人っぽくて、いつも以上にみる香の胸を高鳴らせる。 「契約者の子と、ここまで親しくなれたのは初めてなんだよ」 「え……」  彼の言葉に驚いた。バッド君の方から親しくなれたと言われたことにも、今までの契約者とは親しくならなかったことにも。  意外な彼の言葉に自分はもしかしたら特別なのかと自惚れてしまいそうになる。 「だからね」  バッド君はそこまで言うといつものように爽やかな笑みを見せてこちらに笑いかけてくる。この笑顔には、いつからか安心感を覚えるようになっていた。 「もっと君に近づいても良い?」 (それって……)  はたから見れば告白のようなそんな台詞に、分かってはいながらも嬉しいという気持ちが増してしまう。  分かっている。彼のこの言葉は友達としてだ。決して恋愛の関与するところではない。だがそれでも嬉しい。  他でもないバッド君からもっと仲良くなりたいと言ってもらえているこの状況に、喜ばないはずがなかった。 「うん! 今度出かける時は、バッド君も一緒に遊びに行こう!」  そう言ってガッツポーズをしようと思ったところで未だに彼の手が自身の手首を掴んでいることに気がつく。  みる香は途端に顔が赤く染まり、恥ずかしげにバッド君に「て、手……」と声を出した。  するとそんなみる香を覗き込むようにバッド君は手を掴んだまま近寄ると「友達だから慣れてみる?」と言葉を漏らす。  瞬間みる香は目を見開いた。この男は間違いなく面白がっている。 「慣れないよっ!!! 友達でも男は男! バッド君と二人で密室とかは、行かないよ!?」  そう言ってバッド君から自分の手を無理に引っ張ると案外すんなりと手は抜け出す事ができた。緩めてくれていたようだ。 「あはは、分かってるよ。冗談だって。みる香ちゃんは相変わらず警戒心強いよねえ」  そんな風に笑いながらバッド君は止まっていた足を動かした。  みる香はふと時間を確認すると後五分で予鈴が鳴ることに気がついた。のんびり歩いていたことで登校時間が迫ってきていたのだ。  二人はそのまま早足で学校へと向かっていった。
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