第三十二話『親しい異性』

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 十一月は特に大きな学校行事はない。平穏で平凡な時間が流れていた。今日は友達が皆、部活などで忙しかったため放課後をどう過ごそうか悩んでいた。  みる香は放課後の教室で一人スマホを弄っているとガラッと教室の扉が開け放たれる。 「あれ、みる香ちゃん」 「バッド君……」  今日バッド君は委員会の活動で放課後に居残りなのだと今朝方聞いていたみる香は彼がそれを無事に終えたことを理解した。  お疲れ様と小さく微笑むと彼はありがとうと言葉を返してから何をしているのか尋ねてくる。 「特に何も考えてなくてスマホ見てたら時間が経っちゃってたよ」  そんな間抜けな発言をするとバッド君は笑いながら「そっか〜」と声を出す。屈託のない爽やかな笑みが、みる香の秘めた恋心をくすぐってくる。  それからバッド君はみる香の席の近くまで歩み寄り「一緒にどこか寄り道でもする?」と提案をしてきた。願ってもいない申し出であるのだが、本当にいいのだろうか。  みる香はすぐに返事を返せずにいると彼は再び笑いながら「どこに行きたい?」とまだ返事をしていないのに行く場所を決めようとしていた。バッド君らしい。  しかし悔しい気持ちにはなれど彼の考え通りであるのだから首を振る選択肢はなかった。  みる香は口を尖らせながら「まだ返事してないのに」と愚痴を溢すとバッド君はそれに対して声を返す。 「みる香ちゃんと寄り道したいなあ」 「…………」  その言葉はいささか反則ではなかろうか。そんな嬉しい言葉を告げられてどうしたらいいのだろう。  みる香は僅かに赤らんだ顔を隠すように机に顔を突っ伏した。その奇怪な行動に構わずバッド君は「どうかな?」と尋ねてくる。  みる香は彼の誘いに根負けし顔を上げると分かったと返事を出した。この展開が本望ではあるが、照れ臭くて素直になれない。  するとバッド君は爽やかな笑みに嬉しそうな表情をして「良かった、じゃあ早速行こうよ」と正面に座るみる香に手を差し伸べてきた。  これは椅子から立ち上がるみる香を手伝おうとしてくれている仕草だ。彼の手を掴めば簡単に席を立つことができる。  それは分かっているのだが何だかこそばゆさを覚える。 「じ、自分で立てるから……」  そう言って机に手をかけて立ちあがる。途端に気づく。彼は今、目の前に、それもとてつもなく近い距離に立っている。 「わああっち、チカイ……!!!」 「みる香ちゃん急だね、今日は免疫がいつも以上にないのかな」  バッド君は慌てるみる香から距離を取るとそんな言葉を述べてきた。それは十中八九彼の存在が原因であるのだが、それを告げることはできない。
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