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「そ、そういう日もあるから!! と、とにかくここまでは近づかないで……今日はそういう日だから」
そう言って空中に線を引く動作をするとバッド君を見た。彼は面白そうな顔をしてから再び楽しげに笑い出す。
「あはは、みる香ちゃん面白いこと言うなあ。はは……うん、今日は君との距離感に気をつけて歩くよ」
バッド君は機嫌を損ねることも訝しげな目でみる香に視線を送ることもなくただそう同意をしてくれた。
まだ笑っているのか時折「あはは」と押し殺した笑い声が聞こえてくる。
そして彼はみる香と距離を取ったまま廊下の方へと歩き始めた。
「紅茶味のアイスが近くの店で売ってたんだ。今日はそれを食べに行こうよ」
「えっ紅茶味……!? 行く! そうする!!」
予想外の情報に目を輝かせたみる香は彼の後を追うように机の横にかけていた鞄を肩にかけ廊下へと歩き出す。
バッド君はみる香にどこへ行きたいのか尋ねてきてはいたが、もしかしたら初めからどこに行くのか決めていたのかもしれない。
そう思うととても心が温かくなった。明確な日は決めずとも、どこかでみる香と出掛けようと考えてくれていたというのが分かるからだ。
そのまま二人は美味しい紅茶味のアイスクリームを買いに行き、購入したアイスを口にして満足な放課後を送っていた。
「夏以外にアイスはあまり食べないんだけど、たまにはいいね」
「えっそうなの? でもそういう人いるよね。」
「そうだね。みる香ちゃんは季節問わずって感じだよねえ」
「だってアイスいつ食べても美味しいもん」
「あはは、それは同感だよ。アイスに飽きることはなさそうだなあ」
「そうだね」
そんな雑談をしながらアイスを食べる。彼と他愛のない話をする時間が幸せだ。まさか今日バッド君からお誘いを受けられるとは思いも寄らなかった。
今日はいい日だとそう思いながらアイスを口に入れているとバッド君は不意にこんな言葉を口に出した。
「みる香ちゃんが好きな紅茶系のフレーバーが販売されたら君と来ようと思ってたんだよね。だからラッキーだなあ」
「ら、ラッキー……て何が?」
そう尋ねると彼は微笑みながら言葉を続けた。
「友達のみる香ちゃんと放課後にアイスが食べられた事がだよ」
そう言って残りの溶けかけたアイスを食べるバッド君は、なんの恥ずかしげもなさそうだ。ずるい。
みる香は喜びで心が満たされるもそれを悟られぬように目の前のアイスを口に入れるといつの間にか外が暗くなっていることに今更ながらに気付き始めた。
第三十二話『親しい異性』終
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