第三十三話『昇格』

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 放課後になるとみる香はトイレに立ち寄り、教室へ鞄を取りに戻り始める。  すると静まった廊下で何やら数人の声が聞こえてきた。楽しそうに話している様子ではない。  気になったみる香は声の漏れている家庭科室へこっそり足を運ぼうとすると突然誰かに肩を叩かれる。 「ふえっ!?!?!?」 「ごめんなさいねみる香ちゃん」 「も、桃ちゃん!?」  みる香の肩を叩いたのは桃田だった。彼女は驚いたみる香に申し訳なさそうな顔をすると「あそこは今修羅場みたいなものよ」とみる香が向かおうとしていた家庭科室に視線を向けた。 「修羅場って……桃ちゃん見たの?」 「ええ、それでもしかしたらみる香ちゃんが来るかもしれないと思ってちょっと待ってたの。気を悪くしないでね」  どうやら家庭科室にはバッド君がいるらしい。みる香を案じた桃田はこちらが家庭科室に向かうかもしれないとここで張り込みをしていたようだ。  見事に桃田の予想した通りまさに今向かおうとしていたところなのだが、なぜここまで彼女が心配してくれているのかは疑問であった。素直に尋ねてみると桃田はすぐに答えてくれた。 「直接見たら分かると思うわ。だけどあなたの気分が悪くなるかもしれないから確認するかどうかはみる香ちゃんが決めてちょうだい」  家庭科室を覗きに行く際は、桃田が結界を張ってこちらの姿は見えないようにしてくれるようだ。  そのため直接的にみる香に害はないようだが、会話の内容でもしかしたら傷付くかもしれないと桃田は言う。  どんな内容かは見当がつかなかったが、みる香は家庭科室に行く事を決めた。単に気になるからだ。一体中でどんな話をしているのだろう。 「じゃあ今から結界を張るわね」  そう言って桃田は数秒すると「もう良いわよ」と合図を出して二人で家庭科室へ向かう。  本当に相手側からこちらの姿形が見えないのかという妙な緊張はあったが、先導した桃田が堂々と家庭科室の扉の前で立っていても何の反応もないことから大丈夫である事を理解した。  今更ではあるが、結界は便利であると改めて実感する。  家庭科室に到着したみる香は大丈夫とは分かっていても何となく家庭科室の窓に顔だけ出す形で覗き込み始めた。  中には数人の女子学生とバッド君が話をしている。  その女子学生たちは動物園に行った際に、バッド君と話していた団体グループだった。しかしそこに栗井の姿だけは見当たらない。 (そういうことか……)  この状況を見聞きして桃田が言っていた事は理解できた。  耳を澄ませてみるとバッド君たちはあの文化祭の日のことを話していたからだ。
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