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「だからさ、半藤。栗井ちゃんのこと許してあげてよ」
一人の女子学生――本多はそう言ってバッド君に懇願していた。彼女はバッド君と栗井を仲直りさせたいようだった。
バッド君はそのまま言葉を返す。こちらからでは彼の背中しか見えないため、彼が今どんな表情をしているのかは分からなかった。
「俺は仲良くするつもりはもうないよ」
バッド君は迷うことなくそう告げると本多はその言葉に疑問をぶつけた。先程よりも感情的な声で彼女は声を上げる。
「栗井ちゃんそんなに悪いことしたかな……!? 本人から話聞いたけど、別に大したことしてないと思うんだけど」
本多がそう言うと周りにいた数人の女の子たちもうんうんと頷き同意の言葉を出した。
「それはほんと思った」
「相手がメンタル弱いだけで、栗っちは普通のことしただけじゃない?」
「栗井は言葉遣いが悪かったって言ってたけど、状況見るとねえ」
そんな言葉を次々と発言している。桃田が懸念していたのはこの事だったようだ。
みる香はあの時の状況を思い起こすこの展開に複雑な感情はあったが、それでもあの時のような絶望感は感じなかった。桃田の結界のおかげかもしれない。なぜだか少し安心することができる。
女子学生たちが本多の後に続くように言葉を放ち始めているとその言葉を打ち消すかのように「あーごめんね」というバッド君の言葉が重ねられた。彼が人の言葉を遮るのを見るのは初めてだった。
バッド君は悪びれもなく彼女たちより大きな声で言葉を発する。
「俺さ、善悪とか正直どうでもいいんだ。大事なのは誰の味方でいたいかなんだよ」
彼はそう言うと人差し指を逆さにしながら本多に向け始める。
「だから栗井さんの態度は許したくないな」
シンと静まりかえるのも束の間、本多は再び言葉を発した。
「ねえ半藤、あんたとはさウチら高校入って初めて仲良くなったじゃん。みんなで色々遊びにも行ったし旅行にも行ったよね、たくさん思い出あるよね? なのにウチらよりもあの子の方を庇っちゃうの? ウチらの方が年月も何もかも長いのに? あんたはウチらの友達じゃないの?」
その本多の言葉でみる香は衝撃を受ける。バッド君が栗井たちと高校に入ってすぐ親しくなったという話は初耳だったからだ。そして同時に疑問に思った。
なぜ、彼は以前から親しい仲である彼女らよりもみる香の肩を持つのか。昇格を気にするにしても、みる香とも栗井ともバランスよく仲良くすることはできるはずだ。
だと言うのになぜバッド君はみる香だけの味方をするのだろうか。栗井を突き放す理由はなんなのだろうか。するとバッド君は本多の疑問に応えるように口を開いた。
「長さなんて関係ないよ」
そう言葉を口にし、本多に向き合う形で言葉を続ける。
「言ったろ? 誰の味方でいたいかだって。俺は君たちよりもみる香ちゃんの味方でいたいんだよね、それだけなんだ」
そこまで言うとバッド君は本多に背を向けて「もういいよね? そろそろ帰りたいからさ〜」と言いながら家庭科室の扉に向かい始める。
「半藤! 栗井ちゃんが謝ってもダメなの!?」
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