第三十三話『昇格』

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 本多は一番の大声で彼をそう呼び止めるが、バッド君は顔だけ振り返るとこんな言葉を吐き出した。 「下心だけの謝罪を受ける意味ある? 俺はごめんだな」  それを最後にバッド君は家庭科室を出ていく。すかさず桃田が「あいつ追いかけたら結界解除するわ」と言いながらバッド君の後を追い始めた。  みる香も桃田の後ろについて行き、家庭科室から離れる。 「半藤、どうかしてんじゃないの……」  バッド君がいなくなった家庭科室で、本多はそんな言葉を告げる。その言葉がみる香の耳に響き、彼の選択が本当にこれでよかったのか複雑な心境を抱いていた。 「あれ、急に気配があると思ったらみる香ちゃん桃田といたんだ」  家庭科室から離れ、バッド君がC組の教室に入るのを確認すると桃田は結界の解除を行った。これでバッド君にみる香の居所が感知される。  そのまま桃田と二人でバッド君が入った教室に続けて入るとバッド君は不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。 「……また結界張ったな? 桃田ー」  バッド君は少し不貞腐れたように桃田に向かってそう言うと桃田は「キモいキモい」と言いながら両手をひらひら舞わせている。  バッド君は一拍置くとすぐに状況を察した様子で「あちゃー、てことはさっきの全部見てた?」と困り顔をしてみる香を見てきた。  みる香は「うん、ごめん」と謝り素直に覗き見してたことを認める。バッド君は怒ることはなくただ困ったように「見られちゃってたかあ〜」と言いながら首筋に手を当てていた。見られたくない場面だったのかもしれない。  困ったように笑う彼にみる香は言葉を出した。言っておかなければとお節介にも思ったからだ。 「バッド君」 「ん?」  するとバッド君はいつもの調子に戻り、みる香の方を見る。目が合ってから言葉を続けた。 「さっきの……前から仲が良かったって初めて知ったんだけど、私に気を遣わなくていいよ。あの子たちと前みたいに遊びに行ったり好きなことしなよ」  彼が本心では何を思って栗井を突き放すのかは分からないが、少なからずともみる香を気遣っているというのは何となく察していた。だから彼には言っておきたい。そう思っての発言だった。  しかしバッド君は表情を変えることなくこんな言葉を口にする。 「みる香ちゃんはなんで俺が君の味方をするのか分かる?」  その質問は簡単だ。みる香は頷きながら答えを口に出す。 「うん、契約者だからでしょ」 「違うよ」 「え? ……ええっ??」
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