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即答で否定する彼の言動にみる香は困惑する。するとバッド君はみる香を見つめたまま一歩こちらに近付いて言葉を漏らした。
「契約者だからじゃないよ。理由は君だから」
何の躊躇いもなくそう告げられることにみる香は嬉しい気持ちと動揺する気持ち、そして本当であろうかと困惑する気持ちが入り混じる。頭の回転がうまくいかなかった。
混乱する中ひとまず落ち着こうとバッド君の言葉を復唱してみた。
「………私…だから?」
「そう。みる香ちゃんだから俺は君の味方なんだ。気を遣ってなんかいないし、俺が俺の意志でそうしているんだよ。何のしがらみもない純粋な気持ちで君の力になってるだけ」
「え」
「まあ、だからさ」
バッド君はそこまで言葉を発するとみる香の前で手を振ってみせた。気にするな、というジェスチャーなのだろう。
「俺のことは気にしないでよ。別にあの子達と遊ぶ事にこだわりはないんだ」
しかしみる香のせいで彼の友好関係が悪くなるのは複雑であった。
そんなことを考えながら俯き、思考を続けているとバッド君は「そうは言ってもみる香ちゃんは納得しないよねえ」とみる香の心を読みとったかのような台詞を口に出し、そのまま言葉を続けた。
「契約したての時にさ、俺が言った事覚えてるかな? 天使は基本交流とかに重要性を求めないんだ。自分の為になるから関わりをするだけで、仲の良い友達を作る為に人間界に来てはいないんだよ」
それは覚えているしよく分かっている。だが自分のせいで誰かが何かを失うのは嫌だったのだ。想い人であるバッド君なら尚更だった。きっとこれはみる香の独りよがりのようなものなのだろう。
それをバッド君に伝えると彼は柔らかい笑みを向け、再び言葉を発した。
「うん、それも良く分かっているよ。ありがとね。みる香ちゃんの気持ちは素直に嬉しいよ」
みる香に向き合う形でこちらに歩を進めたバッド君は目の前までくると大きな手でみる香の頭にそっと手を添えた。温かいぬくもりがみる香のつむじから広がり、身体は緊張から強張り始める。
「だけどさ、本当に気にしないでほしいんだ。俺が仲を深めたい相手は、ここにいるからさ」
「え……」
「半藤いい加減にして。あんたはほんっとうに懲りないんだから」
途端に桃田はバッド君の頭を軽くはたき、会話を中断させる。
彼の意味深な言葉は気になるが何となく予想はついている。それほどまでにみる香との友情を大事に思ってくれているということなのだろう。
異性として見られていなくとも、それだけで十分なほどに嬉しい気持ちは決して嘘ではない。
「桃田、今日ばかりは君を邪魔者だと思うよ」
「はあ……みる香ちゃんごめんなさいね、そろそろ帰りましょうか」
「あっそうだね! いい時間」
時計を見ると既に五時を過ぎていた。みる香はこの後、部活が早上がりの檸檬と二人で寄り道をする約束をしていた。
そのことを二人に伝えるとバッド君は爽やかに笑いながら、桃田は微笑みながらまた明日と手を振って見送ってくれた。
そのまま手を振ってくれる二人に大きく手を振りながら檸檬と待ち合わせをしている図書室へと向かっていった。
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