31人が本棚に入れています
本棚に追加
/250ページ
バッド君とのデートは楽しかった。一日中ショッピングモールで時間を過ごしていた二人だが、六時になり空が暗闇に染まり始めるとバッド君の方から「そろそろ帰ろうか」と声をかけられる。
もう少し一緒にいたい気持ちもあったのだが、この時間まで遊べば十分だろう。みる香は心の中で自己解決させるとバッド君に頷いてそのままモールを出た。
冬休みはまだ始まったばかりだ。今年が終わる前にバッド君とはまた会えるのだろうか。
そんな事を考えているといつの間にか自宅の前まで到着していた。あまりの早さにみる香は残念な気持ちになる。彼とはここでお別れだ。
「みる香ちゃん」
「わがまま言って良い?」
「え」
バッド君は唐突にそう口にするとみる香のマフラーを優しく巻き直した。もう家はすぐそこだというのにおかしな動作である。
しかしそれを思っても彼に触れられる僅かな温もりが心地よく、小言を挟む行為はしたくなかった。
みる香はバッド君の目を見つめたまま小さく頷いてみせると正面からそれを見た彼はこんな言葉を口にした。
「一緒に年越ししない? どうかな」
「え、年越し……」
願ってもいない申し出だ。本当にいいのだろうか。
みる香は信じられず「バッド君が? 私と?」と勢いで尋ねると彼は珍しくも控えめな態度でうんと答えてくる。そうして再び口を開いた。
「君としては初めてできた友達と女の子同士で過ごしたいとは思うんだけど、俺も君と年を越したいんだよね」
そう言ってもう一度みる香のマフラーを巻き直してくる。これは二回目だ。何だかくすぐったい。
「そ、れは……全然大丈夫。檸檬ちゃん達に言えば全然大丈夫……女だけっていう決まり、ないし……」
「そっか、なら良かった」
するとバッド君はみる香のマフラーからようやく手を離し、両手をこちらに見せながら「じゃあまた年末に会おうねえ」と言って手を振ってきた。
両手で手を振るバッド君は、何だか温かくて無性に愛おしく感じる。
気持ちが高鳴るみる香を見つめたバッド君は「寒いから早く入ってね」と柔らかい笑顔でそう言ってきた。
みる香は無言で頷きチラリと彼を見ると頭の中に浮かんでいたある言葉を放つ。
「ま、また行こうね」
柄にもなくそんな言葉を告げた。バッド君は間を置くこともなく嬉しそうに微笑みながら「そうだね」と言葉を返してくれる。
そうして家の中へ入ったみる香の気持ちは終始、高まったままだった。そんなことがとてつもなく幸せに感じられた。
第三十五話『好きな人との』終
next→第三十六話
最初のコメントを投稿しよう!