第三十六話『真冬の話』

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 大晦日は人生で一番楽しいと言っても過言ではないほどに楽しかった。  家族で過ごす時間も決して楽しくなかったわけではないが、初めての友達とこうして過ごせる事が特別で心からそう思えたのだ。  ピザを食べた後は皆でテレビゲームをしたり、トランプをしたりして時間を過ごす。  バッド君の友達だという空宗と根は二人とも明るい性格で気さくさがあり意外と話しやすかった。バッド君の人選力は長けていると思う。  みる香はもしかするとこの二人も天使なのではと疑っていたのだが、それを察したのかバッド君からテレパシーで『二人は天使じゃないからね』と念を押されていた。  彼の察しの良さにも本当に感心である。どうやら二人はA組の生徒のようで、クラスが離れているため見た事がないのも納得であった。 「みる香ちゃん」  大晦日も残り一時間となったあたりでバッド君に声をかけられた。みる香は彼に呼ばれたことが嬉しくつい顔に出てしまう。  どうかしたのかと尋ねると彼は「ちょっといいかな」とみる香を手招きして廊下の方へと呼び出してきた。  内緒話ならテレパシーで送ればいいのにと思いながらこうして呼び出されることを嬉しく思う自分もいる。  みる香は無言で彼と廊下へ出るとバッド君はしばらく歩き続け、とあるバルコニーへ出た。ここは颯良々がいつでも風を浴びたい時に来ていいからと事前に案内してくれていた場所だった。  今この場にはバッド君とみる香の二人しかいない。 「何かあったの?」  バルコニーに着くとみる香は単刀直入にそう尋ねる。するとバッド君は「うん」と言ってみる香の方を向いてきた。 「話しておきたい事があって」 「話しておきたい事?」 「そう。この年が終わる前にちゃんと言っておきたいんだ」  そう言うとバッド君は自身の羽織っていたジャケットを脱いでみる香に渡してきた。  いきなり背後に立って羽織りをかけてくるのではなく、敢えてみる香に上着を手渡してくれるあたり、彼なりの配慮なのだと感じられる。  みる香がありがとうと言いながらジャケットを羽織るとすぐにまた暖かそうな手袋を手渡してくる。  その動作に気持ちは高鳴るが赤くなりそうな顔を誤魔化すようにもう一度ありがとうと小さく声を返す。暖かい。 「みる香ちゃん、なんか勘違いしてそうだからさ」
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