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あまりにも近い距離にバッド君の顔がありみる香は思わず「近いよ!」と手を離そうとするがバッド君はみる香を嗜めるような顔をして「自分の顔をそんな風に叩くのは止めてほしいな」とやけに大人じみたことを言ってきた。
彼の力にはびくともせず、手首は掴まれたままである。
「だ、……」
(だって、バレたくなかったんだもん)
そうは言っても彼にそれを伝えることはできない。
みる香は彼との距離が近すぎることに耐えきれず「た、叩かないから離して……?」と弱々しく声を返すとバッド君は爽やかな笑みに戻り、すぐに手首を解放してくれた。
「なーんか、付き合ってるみたい」
突然亜実音のそんな言葉が投げられる。みる香は反射的に彼女を振り向き、焦った様子で言葉を発した。
「何言ってんの!! そんなんじゃないよ!」
「あはは、そう見えちゃいますかねえ〜?」
同時にバッド君も言葉を返し、声が重なった二人は顔を見合わせる。
みる香は上目遣いで彼を見遣ると「そういう反応、一番誤解を生むから止めてよ」と小言を言う。
本当は嬉しい誤解だが、彼にとっては迷惑に違いない。バッド君は面白そうに言葉を返しても心の中でどう思っているか分からないのだ。
複雑ではあるが、そんな彼をみる香は好きになったのだ。その辺りは覚悟している。するとバッド君は笑いながらこう返してきた。
「俺は特別な友達となら、誤解されてもいいけどな」
「えっ」
この男は何度みる香の顔を赤くさせれば気が済むのだろうか。みる香はそれ以上彼に言える言葉が見つからずただただ赤面することしかできなかった。
第三十六話『真冬の話』終
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