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第三十七話『やっておきたい事』
冬休みはあっという間に終わり、高校二年生最後の新学期が始まった。
みる香は段々と近づくバッド君との別れに気持ちが沈む。しかしこの感情を、誰にも話すことはできない。
バッド君への想いを打ち明けた桃田にでさえ、この事だけは話すことができなかった。
(記憶がなくなったら、バッド君を見ても何とも思わないのかな……)
現実的ではない記憶の消失は、みる香には何となくでしかイメージが湧かない。
しかしどうあれ自分の記憶が消されるのは確かだ。分かっているのだ。その覚悟もしている。
とにかく今は彼との楽しい日々を、ただ少しでも楽しいと思えることをしていこう。そう思い、みる香は自宅を出た。
「みるちゃん、おはよ〜」
桃田と同じクラスの平井伶菜は廊下でみる香に手を振ってそう挨拶をしてくれた。
彼女は以前颯良々の家でハロウィンパーティーをした時に連絡先を交換し、意気投合したのだ。今では互いに親しみのある呼び方をするようになっていた。
「おはよう! 伶菜ちゃん!」
彼女と話すきっかけを作ってくれたのはバッド君だ。
あの日、彼が自己紹介の場を設けてくれたからこそみる香は伶菜と話す機会があった。
本当にバッド君には想像以上のサポートをしてもらっている。
だからこそ、彼の追い求めている昇格を応援したいと思う。自分の記憶を消されるのが怖くないわけではない。
だがそれを自然と受け入れられているのは、彼への感謝がそれ以上に大きく、彼の野望を叶えてあげたいと思うからだった。
「みるちゃん〜!!! ねね、今日放課後ひまっ!? 遊ぼうよ〜」
突然みる香の背後から抱きついてきたのはいつものようにテンションの高い星蘭子だ。
みる香は驚きはしたものの彼女からの誘いが嬉しく「暇だよ! 遊ぼう!!」と返事を返す。
遅れてやってきた莉唯も会話に加わり放課後の話をして休み時間を楽しんだ。教室以外でも仲の良い友達がいるというのは嬉しい事だった。
みる香の周りにはいつの間にかたくさんの友達が出来ていた。これは大袈裟でも何でもなく、本当に全てがバッド君のおかげだった。
(それに……)
バッド君は多くの友達だけではなく、みる香の知り得なかった恋心まで教えてくれた。
これ程の貢献が一体どこにあるのだろうか。これ以上に尽くしてくれる者はどこを探してもいないだろう。
それが昇格という目的のためであってもみる香には嬉しかった。バッド君は、本当にたくさんのものをみる香に与えてくれた――――。
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