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第三十八話『バレンタイン』
週明けの休み時間、廊下を歩いているとふと伊里とすれ違った。彼はみる香に小さく会釈をしてくる。
みる香も彼に習って会釈を返すとそのまま通り過ぎていった。そうだった。彼も天使なのだ。
ダブルデートの時とハロウィンパーティー以外で彼との関わりはなかったが、バッド君や桃田と同じように彼も誰かのサポートをしているのだろう。
みる香が知らないだけでもしかしたら身近な人物が天使である可能性もあるかもしれない。
そんなことを思いながらみる香はもう一つのことを頭に浮かべた。
(バッド君が私を選んでくれて本当に良かった)
彼がいてこその今のみる香であるのだ。バッド君がいなかったら、友達は愚か、彼を好きになることも恋心を知ることもなかった。
それに、勉強の要領だって彼に教わらなかったら悪いままだった。バッド君のことを考えると次第に彼への愛しさが増してきた。
『バッド君、今どこいる?』
みる香はテレパシーを送っていた。何だか無性に彼と何かしらの接点が欲しくなっていた。
するとすぐに彼からのテレパシーが返ってくる。
『今教室にいるよ。どうしたの?』
『あ、ううん何となく。私ももう教室着くから今行くね』
『分かったよ。待ってるね』
そこでテレパシーは終了し、自分のクラスであるC組に足を踏み入れるとバッド君が手を振りながら「こっちだよみる香ちゃん」と手を振ってきた。
ただ手を振ってくれているだけなのだが、その行為がとてつもないほどに嬉しく感じてしまう。本当に自分は、バッド君に釘付けになっている。
そう自覚しながら彼のいる座席へ近付いていった。
「みる香ちゃんこれあげるよ」
「え」
途端に彼に手渡されたのはみる香が大好きなほうじ茶の飴だった。これは以前、みる香がバッド君にあげた飴と全く同じ種類のものだった。
「あ、袋ごと渡しとくね」
そう言うとバッド君は鞄の中から未開封の飴を一パック取り出し、みる香に渡してくる。何がなんだか分からなかった。
「フリーズしちゃってるよみる香ちゃん、最近見つけたから買ってみたんだ。君が好きだって言ってたから」
バッド君は爽やかに笑いながらそう言ってくる。
しかし友達からなんでもない日にこんな一パックごと渡して貰えるとは思わないだろう。
みる香は嬉しい気持ちが身体中を満たし、僅かに赤らんだ顔でありがとうとお礼を言った。彼の気持ちが嬉しかった。
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