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(私の好きなもの、思い出してくれたんだ)
彼の記憶力が秀でていることはよく理解している。
しかしこうして、お店の陳列棚にある商品を見てみる香の好物を思い出してくれることがこの上なく嬉しいと思う。
みる香は大事そうに袋を抱えているとバッド君も嬉しそうにどういたしましてと口にした。
そうして急に顔を近づけ第三者に聞かれないためか小声でこんな言葉を口にする。
「ちょうど君に渡したいと思ってたんだ。タイミング、凄くよかったね」
テレパシーを送ったタイミングのことを言っているのだろう。彼の意見には同意するが、しかしこの距離は反則である。
みる香は勢いよく身体を彼から離すと真っ赤になった顔で抗議の声を上げた。
「近いよっ!!!」
「あはは、ごめんごめん」
みる香は彼を軽く睨みながら袋をぎゅっと掴み、自席へと戻り始めた。
すると二人の様子を見ていたのか檸檬と颯良々がこちらにやってくる。
「何々、また半藤が何かしたの? あんた、みるの免疫のなさ知ってるでしょうに」
「も〜半藤、森村ちゃん揶揄うのやめてよ」
「え〜二人とも厳しいなあ。だってみる香ちゃんの反応面白いんだもん」
そう言って困ったように笑いながら後頭部を掻き始める。すると今度は口元を緩ませながら言葉を付け足してきた。
「可愛くてさ」
好きな人に他意はなくとも、可愛いと言われることがどれだけの喜びを与えるものなのか、彼はきっと知らないのだろう。
(元タラシだもんね……)
そう思いながらも赤面は止まらず、みる香はバッド君への気持ちを再確認していた。
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