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「……特別だからこそ取り乱すんだよ」
「え?」
「君が特別だって言った事、もう忘れちゃったの?」
そう言っていつもの爽やかではない、少し拗ねたようなそんな顔をしてこちらに目線を送ってきた。
そんなバッド君の眼差しにドクンと心臓の音は跳ね上がるが、みる香は自身の気持ちを落ち着かせようと小さく息を吸う。
「わ、忘れてないよ! 覚えてる……あ、あのさ…」
そして無理やり話題を切り替えた。
「ハンカチ、また何かあったら貸してくれる? 私ハンカチ持たない主義だからさあ」
最悪な発言であるが今のこの状況ではみる香の赤面は逃れられないだろう。赤面ばかり彼に見せるのは嫌だった。気持ちがバレては困るのだ。
そしてそんな風に話題変換をしたみる香をバッド君は不思議そうに見つめながら不意に小さく笑いを返した。
「みる香ちゃん、女子力捨ててるねえ」
そして片手で口元を覆いながら笑い始めると再び笑顔で「ハンカチくらいいつでも貸すよ」と言葉を返してくれる。
みる香は赤面を回避できたことに安堵しながら彼にありがとうと言ってハンカチを返す。そこでふと気がつく。
「あっ……そうだ、洗って返すよ」
しかし彼は気にしていない様子で「大丈夫だよ」とみる香が手元に戻しかけたハンカチを持って行ってしまった。
「毎日洗うものだし、気持ちだけ受け取っておくね」
バッド君はそう言うとみる香に背を向け用があるのか教室とは逆方向へと歩き出す。
みる香はそんな彼の背中を見送りながら先ほど誤魔化したはずのときめきが再び自分の中で起こり始めているのを体感していた。
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