31人が本棚に入れています
本棚に追加
/250ページ
バレンタインの日はどこか皆そわそわしており、雰囲気がいつもと違っていた。そわそわしているのは男だけではなく、多くの女の子達もそうだった。
みる香はバッド君に早朝渡すべきか考えていたが、一緒に登校していたもののタイミングを見事に失い、いつ渡すべきかで悩んでいた。
友チョコを檸檬と颯良々に渡す際にさりげなく渡すのが無難だとは思っていたが、その作戦はあっけなく崩れた。
登校した途端に二人からチョコを渡され、みる香も二人にチョコを配るとバッド君はいつの間にか教室から消えていたからだ。
きっとバレンタインだから彼も誰かに呼び出されているのかもしれない。
(改まって渡すと変に怪しまれそうだしなあ)
本命ではあるのだがそれを知るのはみる香と桃田だけだ。桃田にはバレンタインチョコを作る前にバッド君の好きなお菓子は何かと尋ねていた。
チョコは渡すがあくまで気持ちは隠したまま渡す事を伝えると「みる香ちゃんの意思を尊重するわ」と言ってみる香の気持ちを汲んでくれた。勿論、今日は桃田の分の友チョコも用意している。
バッド君へ渡すチョコのラッピングは友達に渡す分と同じものだが、中身だけ少し豪華に盛り付けていた。
しかしこれは日頃の感謝ということで渡せば自分に気があるのだと思われる事はないだろう。
この点に関しても桃田に相談しており、それなら大丈夫だろうと意見をもらっていた。
少しだけでも特別感が欲しく、しかし気持ちがバレる事だけは避けたいという矛盾した感情を持ちながらもこうしてきちんと物を用意することができた。
そのことに達成感を得ていたみる香はしかしいつ渡そうかと再び悩んでいた。
そう考えている内に時間は過ぎていき、星蘭子や莉唯、桃田に伶菜と渡すべき相手にチョコを渡し終え、残るはバッド君のみとなっていた。
(どうしよう。もう教室でサラッと渡せればいいやと思ってたけど、バッド君全然姿が見えない……)
そうなのだ。授業中以外に彼の姿は見えず、渡すタイミングどころの話ではなくなっていた。
焦り出したみる香は昼休みに彼にテレパシーを送ることにした。
『バッド君、今日お昼一緒に食べない? 屋上にいるから来れたら来てね』
檸檬と颯良々にはバッド君とお昼を食べてきていいかと声を掛け、難なく合意をもらったことで早速テレパシーを送ったのだ。
真冬である屋上は寒いというのにそこを指定した理由は人目につかないからだ。上着も持ってきたため風邪を引くことはないだろう。
それにお昼を食べるのは口実であり、チョコを渡せればそれで良かった。みる香はテレパシーを送った後に屋上へ向かい始める。
『いいね、食べようか。だけど屋上は寒いんじゃないかな? みる香ちゃんはいいの?』
すると数秒してからテレパシーが返ってきた。
こんな些細なことでもみる香はホッとし、安心する。連絡がもしかしたら来ないのではないかと少し怖かった。
『屋上でいいの! 上着持ってきてね!』
最初のコメントを投稿しよう!