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そう送り返すとみる香は駆け足で屋上へ続く階段を走り出す。
すると背後から「あはは、みる香ちゃん全速力だねえ」と爽やかな彼の言葉が鼓膜に響いた。
振り返るとそこにはたくさんの紙袋を両手に持ったバッド君が立っていた。
「何その紙袋……」
「モテるって大変だねえ〜」
バッド君は困ったような顔で笑いながらそう言うといつの間にかみる香の近くまで階段を登り「入ろうか」と言って屋上の扉を開けた。
屋上で昼食を摂りながら彼と雑談をする。バッド君が今日ほとんど教室にいなかったのは呼び出しをされ続けていたからだそうだ。それはそれで納得である。
予想もしてはいたが、まさかほとんどの休み時間を呼び出されているとは思わなかった。
「お返し大変だね」
みる香は口の中にトマトを放り込みながらそんな言葉を口にする。これだけの量をもらうと一体合計でいくら分かかるのだろう。
するとバッド君はみる香の方に微笑みかけてこんな言葉を口にする。
「返さないから問題ないよ」
「えっ!? 返さないの!!?」
「うん、人間は義理堅いから返す人が多いけど、俺はそんなことしないよ。お金の無駄だからね」
そう言ってからバッド君はもう一度みる香に笑いかけると「貰えるものは貰っておこうってスタンス」と言葉を付け加えた。想い人ながらに清々しい性格をしている。
(まあ別に、お返しなんて期待してないし)
「バッド君らしいや……」
彼の非人情的なところは相変わらず健在だ。
これも天使らしいと言えるのだろう。返されない女の子達は気の毒ではあるが、みる香もこれから彼女達の仲間入りをすることになる。
お返しがないからといって彼にチョコを渡さない選択肢は元からなかった。渡さなければきっと記憶を消される瞬間まで後悔するだろう。
だから彼のお返しは気にするところではなかった。
昼食を食べ終えたところでみる香は鞄の中に隠していたチョコを手渡した。彼の目の前に差し出し、そうできたことにようやく安堵する。
するとバッド君は余程想定外だったのか一瞬固まると「何してるの……?」と問いかけてきた。
どう見てもバレンタインチョコを目の前のバッド君に渡しているのだが、彼はどうやらチョコを貰いすぎたせいで感覚が麻痺しているようだ。
「バレンタインチョコを渡してるんだよ。友チョコの」
友チョコという単語を強調させてそう答えるとバッド君は「マジか……」と彼らしくもない言葉を発したと思っていると何故か突然みる香を抱きしめてきた。
流石のみる香も驚きと動揺で頭が混乱を始める。
「!?!?!?」
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