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「何もおかしくないよ。だって恋愛としてのハグは胸とかも触りたいじゃん? みる香ちゃんにそんなことはしてないしさ」
「なっ……!!!」
最低である。発言が最低だ。
要するに下心があるかどうかを言っているのだろうが、彼の言い分は屁理屈ではなかろうか。
しかしプレイボーイだったバッド君がみる香に対してハグ以上のことをしていないのも事実だ。
みる香は納得がいかなかったが今回は折れることにした。
彼の真意は本当に謎であるが、想い人との意図せぬ抱擁は決して嫌な気持ちにはならずむしろ嬉しかった。ただ、この喜びを彼に知られる訳にはいかない。
「も、もう止めてね。私は友達とはハグもしない主義だから!」
そう言うとバッド君は笑いながら「うん、分かったよ。ごめんね」と言ってみる香の手からようやくチョコを受け取る。
「あまりにも嬉しくてさ。チョコありがとね、みる香ちゃんが俺に用意してくれてるとは思わなかったよ」
その言葉は素直に嬉しかった。バッド君の中ではみる香からチョコを貰う展開を考えていなかったみたいだ。
彼はみる香から受け取ったチョコを本当に嬉しそうに眺めながら「食べてもいいかな」と聞いてくるので頷いてみせる。今、食べてくれるということがとても嬉しく感じられた。
「可愛い包装だね、みる香ちゃんらしいな」
にこやかに笑みをこぼしながら彼はそう言ってそっとラッピングをほどいていく。
みる香はバッド君の仕草に胸を弾ませながらも「私って可愛いイメージあるの?」と純粋な疑問を口にした。
外見は勿論のこと、元々可愛い系の私物を持たないみる香にとってバッド君の言葉には疑問があった。
すると彼は迷うことなくうんと声を返してきた。
「可愛いよすごく」
そんなあっさりと言ってくるバッド君は、自分がどんな爆弾を投げたのかも知らずに美味しそうにチョコを頬張っていた。
対してバッド君の言葉に再び赤面したみる香は彼のそんな様子を嬉しげに見つめて、この日々を、この瞬間を、そしてこの想いの全てを、大切に心の中に刻み込んだ。契約終了は既に迫っている。
第三十八話『バレンタイン』終
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