第三十九話『日常』

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 檸檬に彼氏ができてから颯良々と二人で昼食を過ごすことが少し増えていた。お昼になると檸檬は彼氏と二人で食べるようになったからだ。  檸檬は最初遠慮していたがみる香と颯良々は遠慮しなくていいと彼女を彼氏の元へと行かせていた。  そんな日が何日か続いたある日、いつも昼食場を転々としているバッド君が珍しくみる香と颯良々の所までやってきて一緒に食べても良いかと聞いてきた。  みる香にとってはそれはご褒美のようなものだ。 「んーまあいいよ、みるは平気?」 「あ、うんダイジョブ……」  内心喜ぶところを悟られないようにと気を付けていると二人からの了承を得たバッド君は「やった、ありがとう」と爽やかに笑い、空席の椅子に腰掛け始める。  机をくっ付ける訳ではなかったが、みる香の座席の隣の空席に座り始めたため、距離感がどことなく近い。決して近すぎる訳ではないのだが何だかとてもドキドキする近さだ。  バッド君ともし隣の席であったら授業中は終始落ち着きが止まらないだろう。  そんなことを考えながら三人でなんの取り留めもない雑談をした。バッド君には檸檬の話をしていたので彼女がここにいない理由を説明する必要はなかった。  暫く話しながら昼食を食べ終えると颯良々はトイレに行ってくると席を立った。  自然とバッド君と二人きりになる。  周りは他のクラスメイトが騒がしく静かな沈黙は流れていないが、なんとなく緊張で言葉に詰まった。  するとバッド君は突然こんな言葉を口にした。 「夕日さんに彼氏ができて寂しい?」  檸檬の話だ。彼の質問に驚くもののみる香は素直に自身の気持ちを口に出す。 「え? うーん、寂しいといえばそうだけど嬉しいよ」 「そっか、みる香ちゃんは夕日さんの良い友達だねえ」 「そりゃ、檸檬ちゃんは大事な友達だよ。だからこそ嬉しいし」 「あははそっか、夕日さんカップル結構有名になってきたよねえ」  確かに最近は檸檬達のカップルは少し噂になっている。二人の姿を遠目で見かけた時に周りの生徒がお似合いだと話していたのを耳にしていた。  それを聞いてみる香も本当にお似合いのカップルだと思っていたのだ。 「そうだね、私もいつかあんな素敵な恋がしたいな〜」  なんとなくそう口にした。今はバッド君以外の男など全く目にないが、いつかはこの初恋を終えて、新たな恋をするのかもしれない。  それは正直言うと寂しく、できれば彼だけをずっと思っていたいとは思う。  しかし、記憶がなくなればそれも叶わぬ願いとなる。 「……ねえ、今の台詞、他の男の前では絶対に言わないで」
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