第四十話『ホワイトデーが終わる』

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「ありがとう! ねえバッド君、お願いがあるんだけど」  みる香は有り難く彼からホワイトデーを受け取ると大事に胸元で抱えながら彼を見つめ返した。  バッド君は悩む事なくすぐに「勿論、言ってみて」と言葉を返してくれる。  みる香は微笑みながらそう答えてくれるバッド君から少しだけ目線を外すと意を決して言葉を放った。 「あのね、残りの三日間思い出作りたいなって思って……残りの二日もこうやって遊びに行かない?」  そう言うとバッド君は驚いた様子で「え」と声を漏らす。そこでみる香はまずいと感じた。  バッド君にみる香が記憶を消されることを知っているとバレるのは本望ではない。  みる香は内心慌てていたが表ではあくまでも冷静に、言葉を並べたてた。何だか今日の自分はいつになく動けている気がしていた。 「契約期間がもうすぐ終わりでしょ!? 今後もバッド君とは遊べるとは思うけど、ほら、テレパシーとか……使えなくなる前にたくさん使っておきたいからさ」  我ながら馬鹿らしい発言であるが、特に怪しまれそうな態度ではないはずだ。  その言葉を聞いたバッド君はいつものように爽やかに笑いながら「そうだね、今の内にテレパシー満喫しておかないともう使えなくなるからねえ」と言ってみる香の意見に賛同してくれた。  その返しを受けて良かったと胸を撫で下ろす。彼には真意を悟られてはいないようだ。  バッド君は察しが良いためこのような事態も想定していたが、何とか誤魔化せて良かったとみる香は安堵した。  そしてバッド君とは明日と明後日も遊ぶ約束を交わした。  これが最後の約束になるのだろうとそんなことを思いながらみる香は押し込めていた寂しさが一気に膨らみ始めるのを感じていた。 (もうすぐ……これで本当に……)  お別れだ。 第四十話『ホワイトデーが終わる』終                 next→第四十一話
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