第四十一話『友達にお別れ』

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 バッド君に貰ったホワイトデーはみる香の大好きなほうじ茶風味のクッキーだった。  可愛らしいラッピングはみる香の女心をくすぐり、彼からの最後であろうプレゼントを噛み締めながら大切に食べた。  包装紙は記念に残しておこうと決意し、引き出しの中にしまっておくことにした。  バッド君とは三日間、約束した通り毎日遊んで過ごした。  河川敷へ出かけ寒い中走り回ったり、映画を見に行きアクションの話で盛り上がったりと悔いのない時間を過ごしたつもりだ。  欲を言えばずっと続いてほしいなどと思ってしまうのはきっと、自然な感情だろう。  だからこそ、一分一秒を無駄にはしたくなかった。  契約終了まであと一日となった日には、バッド君の方から「明日で最後のテレパシーだから」と笑いながら用がなくともテレパシーを何度も送られていた。  あまりにもおかしなその行動はしかしみる香にとっては喜ばしく、何よりそう思って行動してくれるバッド君の気持ちが嬉しかった。  そして今日は――終業式だ。  覚悟はできているとは言っても、気持ちが苦しく辛く、何より悲しいことには変わりなかった。この感情は記憶ごと削除されるだろう。  悲しい気持ちも一緒に消えるならいいだろうと前向きに捉えてみるが気持ちの奥深くを突き詰めると虚しい気持ちは増していた。  予鈴が鳴る。終業式は終わり生徒達は下校していく。 「森村ちゃんジマちゃんまた春休み遊ぼうね〜! 同じクラスになれるといいなー」 「同じクラスになったらいいよね、またグループレインで日程決めよ」  そんな事を言って檸檬と颯良々の二人は帰宅していった。  二人には一緒に帰らないかと誘われていたが、用事があるのだと告げて断っていた。世界で一番大事な用事だ。 (いるかな)  バッド君には屋上に来るように言われていた。  しかし行く前にもう一つだけやっておきたいことがあった。  彼には遅れることを事前に伝え、みる香はD組の教室へ顔を出すとそこに桃田の姿がいることを確認する。良かった、まだいた。 「桃ちゃん」 「みる香ちゃん」  クラスにはまだ他にも生徒がいた。桃田は何かを察しているのか「旧校舎の方に行きましょうか」と気の利いた発言をしてくれる。  そのまま二人で旧校舎に出向くとみる香は口を開き出した。彼女ともきっとこれが最後の会話だ――――。
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