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「桃ちゃん、あのね」
みる香はゆっくりと言葉を放つ。
桃田は「うん、何かしら」といつも以上に優しい声色でそう返してくれた。それがとても、切実な気持ちを生み出す。
「桃ちゃん、これから私が言うこと……肯定も否定もしないで。多分……私、明日以降桃ちゃんとバッド君とは一緒にいられない気がするから……」
桃田は何も言わない。ただみる香が望むように静かにそこで話を聞いて、続きの言葉も待ってくれている。
みる香は桃田の顔を見れずにいたが、ようやく顔を上げると彼女の瞳に目を合わせて言葉を続けた。
「本当に、今までありがとう。桃ちゃんと友達になれて良かった、本当に、良かった」
みる香は自然と肩が震えていた。
別れの言葉というものはこんなにも悲しい気持ちになるものだったのかと、初めての友人との別れに新たな感情が湧き起こる。
「…楽しい事も沢山できたし、私の一年間の思い出には桃ちゃんとの嬉しかった記憶がたくさんあるよ。桃ちゃんはいつも私の相談に乗ってくれて本当にね、心強かったんだよ」
楽しい記憶だけではなく、桃田には感謝の気持ちも強かった。
いつしか久々原に誘われて紅茶巡りに行った時、文化祭の時、桃田は確実に何かをしてくれた。
何かは分からないが、彼女のおかげで今のみる香がいることには間違いなかった。彼女には、感謝してもしきれないほどの大きな感情がみる香の中に芽生えていた。
「桃ちゃんにはいつも、大好きって気持ちと感謝の気持ちしか生まれなかったよ」
バッド君への気持ちが辛くてどうしようもなかったハロウィンパーティーの時、彼女は何も言わないみる香の心を見透かしたように話を聞いてくれた。
あの時本当に、心が救われたのだ。
桃田には数えきれないほどの多くの事を本当にたくさん、してもらっていた。
泣きそうになるのをグッと堪えながらみる香は桃田に笑いかけると、彼女はこちらに寂しげで、けれどどこか優しい笑みを向けながらそっとみる香の身体を包み込んだ。
「みる香ちゃん……」
彼女の温もりは温かく心地よかった。
天使は非情であるとバッド君にも桃田にも言われたことがあったが、みる香にはそうは思えない。
他の天使ならばともかく、この二人の天使だけは絶対にそんなことはないのだとこの温もりだけで断言することが出来た。
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