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「……あいつにはやっぱり告白しないの?」
少しの間があり、桃田はそう尋ねてくる。みる香は頷きながら「うん」と言葉を返した。
「バッド君は友達でいたい筈だから……特別な友達って言ってくれた事を、否定するのは嫌なの。だから言わない」
そう言って桃田から身体を離すと彼女が心配をしないように笑って見せた。強がりでもここは笑顔でいたかった。
「でもこれからもバッド君には幸せになってほしいな、えへへ」
すると桃田は寂しげな笑顔を見せるみる香に笑みを返さず眉根を下げながら再び口を開き問いかけてきた。
「あいつはみる香ちゃんの気持ちに気付かずどこの誰とも分からない天使と生涯を添い遂げるのに、それでもあいつの幸せを願うの?」
桃田の言いたい事は分かる。だがみる香にとっての答えはずっと変わらなかった。
「うん願うよ。バッド君には幸せになってほしい。好きな人には…………その人の、幸せを願いたいから。これは強がりじゃなくて、本当にそう思うんだ」
そう言ってみる香はもう一度桃田に笑みを向けた。心配しないでくれと、そんな意味も込めていた。バッド君の幸せはみる香にとっても大事な事だった。
彼はきっと素敵な天使と将来を誓い合い、子を成して生涯を過ごすのだろう。
それは前に聞いた彼の願望そのものだ。彼は昇格のためだけに何でもする。だからこそ、ここまでみる香を変えてくれた彼の目標を、応援したいと思う。
彼の隣にいるであろう将来の相手に嫉妬心がないと言えばそれは嘘だ。
しかしバッド君が望んでその道を選ぶのなら、止めたいとは思わない。本当に――幸せになって欲しかった。
「桃ちゃん、これまでたくさん助けてくれて本当にありがとう。桃ちゃんにも幸せになってほしいな」
そう言ってみる香は桃田の両手をそっと包み込んでから最後にもう一度だけ笑顔を向けた。
桃田は「私もよ」と声を返し、どこか寂しい笑顔を互いに向け合うとみる香は彼女に背を向け、旧校舎を後にする。
(さようなら、桃ちゃん)
他に選択肢はないのだろうかと思うほどに辛い感情が湧き上がってくる。だがそんなものはないのだ。
これは規則であり、天使にサポートしてもらった以上その規則を拒む事はできない。
一年間多くの事を与えられてきた者の宿命だ。
気持ちが揺れ動く中、みる香は屋上の方へ向かい始める。
そこへ行くのは怖い。
だが、そんな気持ちを振り払うように駆け足で最後の場へと足を運んだ。
第四十一話『友達にお別れ』終
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