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「!!?」
ドキッという未だ慣れない鼓動の音が鳴り出す。
いつも以上にやけに煩く感じるその鼓動の意味に疑問を感じる前にバッド君は自身の髪を抑えながらハーッと息を吐き、困ったような顔つきで次の言葉を繰り出してきた。
「だったんだけど……みる香ちゃん、俺の予想を超えすぎだよ」
そう告げて再び困惑したような顔で、しかしどことなく嬉しそうにも感じる彼は伏せていた目線をみる香の瞳に合わせてそのまま見据えてくると言葉を告げた。
彼の表情はもう困ったような表情ではなく、こちらも緊張してしまいそうなほど、真剣な顔をしていた。
「俺は君を、降格してでも本名を伝えたい相手として認識したんだ」
その言葉を耳にしたみる香は激しく心臓が波打つのを感じた。ドクンドクンと鼓動の音は高まり、顔が火照っているのが鏡を見ずとも分かる。
彼の真剣な眼差しから目を逸らす事はできず、ただただ彼と視線を通わせ見つめ合う。
思考が動く前にバッド君はみる香の想像もしなかった言葉を、口にした。
「みる香ちゃんが好きになっちゃった」
「…!!!」
それは、あまりにも予想外な彼からの告白だった。
そのまま硬直するみる香を見つめながらバッド君はもう一つの告白をしてくる。
「友達っていうのは嘘だったんだ、ごめんね」
「一人の女の子として、心の底から好きなんだ」
「う、うそ……」
そこでようやく声を出せたみる香は彼の視線からは目を逸らさずしかし自分の瞳は困惑の色を見せたままだった。
これは現実なのだろうか。本当に、長い夢でも見ているのではないだろうか。
「本当だよ」
そう言ってバッド君は一歩みる香へ近づいた。
「信憑性ないかもしれないけど、君が誰よりも特別な存在なんだ」
みる香は鼓動の音が鳴り止まぬまま彼の言葉を一つ一つ頭の中で復唱する。彼は間違いなく、みる香へ恋をしているのだと本人の前でそう告げている。
暫く言葉を返せずにいるとバッド君は少し寂しげな表情を見せ、こんな言葉を補足した。
「…どうしても伝えたかっただけだから、みる香ちゃんは気にしなくて大丈夫だよ。当然だけど俺を好きになってほしいだなんて無茶なことは言わないし」
「…………たしも」
「え?」
「私も、バッド君が好き」
躊躇う理由はもはやなかった。彼が友達だと思っているからと、彼に好きにならないでくれと言われていたからこそみる香は気持ちを閉じ込めた。しかし――そんな必要はもうないのだ。
記憶が消されるのは分かっている。この恋が、消えてしまうことも。この切実なほど愛おしい大切な気持ちが近い未来なくなることも分かっている。
自分が忘れてしまうこの想いを伝えるのは虚しいと確かに思っていた。
だがそれでも――彼が自分を想ってくれているのなら――――自分が忘れてしまってもいい。
この気持ちを伝えたい。
そう強く、この瞬間に思った。
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