第四十二話『契約の終わり』

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「友達じゃなくてバッド君が好きなの」  そう言ってみる香は泣きそうな目を精一杯堪えながら彼を見つめた。これが人生で初めての告白だ。 「私も友達って嘘ついてごめん」  するとバッド君は先ほどとは打って変わり様子がおかしくなる。それは明らかに動揺した様子だった。  彼は一歩後ずさると口元を片手で覆い、焦ったような声を漏らす。 「え、ちょ、まってみる香ちゃんそれ本当? 予想外だな……」  どうやら彼はみる香の想いに本気で気が付いていないようだった。必死で隠していた為、そう思われても納得だ。  勘の鋭いバッド君にならバレてしまうかもしれないと悩んだ時もあったのだが、それは問題なかったようだ。いや今となってはバレていても良かったのかもしれない。  バッド君の衝撃的な告白を受けてみる香は彼を好きでいて良いのだと、初めてこの感情に対して後ろめたさが消えていくのを実感した。 (良いんだ、良かったんだ。ううん、それより……)  彼と同じ想いだったのだという事実にようやく気持ちが喜びだけを実感する。  バッド君はずっとみる香を、人間の森村みる香を、一人の女の子として好きになってくれたのだ。  それはどんな事実よりも嬉しく、こんなに嬉しいことがあっても良いのかと思わせてくれる程に幸せな瞬間だった。もう、悔いなどない――。  バッド君も同じ事を感じてくれているのか無言でみる香の方へ歩み寄るとそのまま優しく抱きしめてくれた。自然と涙が出る。涙を堪える必要はもうないのかもしれない。  何も言わずに抱きしめられたみる香は、彼に何かを言う事はせず、ただそっとバッド君の大きな背中に手を回した。彼の背中は大きくて温かい。そしてとても、心地よかった。  それと同時にもう一度だけでも彼に抱きしめられることが出来、喜びを感じる。  暫くそのまま抱擁を交わしていたが、そのままの体勢でバッド君は「みる香ちゃん、あのね……」とずっと覚悟していた言葉を切り出そうとしていた。  みる香も覚悟を決め、彼の言葉を待つが、バッド君はまだ言葉を出せないようだった。  そんな彼の気持ちを理解し、その躊躇う思いを少しでも和らげたかった。  バッド君の背中から手を離し、彼と少しの距離をとる。そしてみる香はゆっくりと言葉を告げた。 「私の記憶、消すんだよね。もう消して大丈夫だよ」  その一言で彼の瞳は揺らいだ。  そして「みる香ちゃん、何でそれ……」と口にすると先程よりも動揺した様子の彼は今までに見たことがないほど悲しそうな顔でこちらを見つめてきた。  みる香は笑みを崩さないよう意識しながらその問いかけに答える。
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