第四十三話『覚悟』

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* * *  みる香の記憶の消去は完璧だった。何ら問題はなく、今まで通り一年間のサポートが終わった。  みる香の友人である夕日や飯島等の記憶に関しては、半藤もとい一琉(いちる)の記憶を消すことをしていなかったが、彼女らにはみる香と一琉を見ても二人の仲に違和感を持たないように細工をしていた。  そのため彼女らがみる香と一琉の互いに他人行儀な姿を目にしても違和感を持つことはない。  またみる香が一琉との関わりを思い出しそうな行事を脳内に浮かべたとしても、彼女はそれを夢や自分の中の想像、または一琉の存在を別の誰かだと思うように操作している。  そしてこれまでの写真やスマホの連絡先、履歴などは全て削除してある。手書きの私物に関しても能力を使って削除済みだ。  ここまでが契約の後処理であった。一琉はこれまでもずっとそうしてきており、天使は皆、そうしてまた新学期に新たな契約者を見つける。  森村みる香との出逢いは偶然だ。新たな契約者を探していた際にちょうど彼女を見つけた。  誰かと戯れる事なく一人椅子に座る姿を目にしてそのまま暫く観察していた。  彼女はクラスも同じで友達が本当に一人もおらず、昇格する条件にピッタリだとそう思った。そして一琉のルールにも全て当てはまっていた。だから彼女を選んだ。  誰かに嫉妬したのは初めてだった。昔、伊里がやけに落ち込んでいた際に声をかけた事がある。  どうやら彼の恋人が異性と契約を交わしたらしく、それに落ち込んでいるようだった。  一琉には意味が分からなかった。それのどこに、焼きもちを焼くのだろうと。当時の自分の恋人が自分以外の男と仲良くしているところを想像してみたが、全く感情は動くことがなく、それが至極当然であった。  嫉妬など、自分の中では存在しないものだとそう思っていた。  訳がわからないと伊里に素直に言葉を投げた一琉は彼に「お前は変わってるからもういイ」とため息を吐かれていた。  だがその感情は突然現れた。みる香が久々原と楽しそうに過ごしているのを見て、初めて知った。嫌だと思った。あいつと楽しそうにしないでほしいと。自分の隣でその笑みを向けてほしいのだと、そう思った。  ハロウィンパーティーで桃田が一琉を差し置いてみる香を結界で囲ったことにも嫉妬は湧き起こった。  同性であれ、自分の契約者であるみる香を結界で隠すなど、気分の良いものではなかった。  嫉妬する自分はいつだってみる香に関わっている時にだけ、現れていた。  一琉は後悔したことも今まで一度もなかった。しかしみる香に出会ってからその気持ちは生まれ始める。  実際に彼女への想いを自覚してから時々なぜあんな事を言ってしまったのかと後悔する事が何度もあった。  一番悔やまれたのは契約して間もない頃に、彼女に自分の事を好きにならないよう注意喚起をした事だ。  あれは本当に、自分が愚かだったと思う。
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