第四十三話『覚悟』

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 彼女を好きになってからは一緒にいられる時間がひどく心地良く、幸せだった。みる香が楽しいとこちらも嬉しく楽しい。  友達が増え、彼女の方から楽しかった事を積極的に話してくれる時間が好きだった。  楽しそうに話すみる香は誰よりも可愛らしく、ずっと、その笑顔を目の前で見ていたいと何度も思った。  特別な友達は都合の良い言い訳で本当はどうしようもないほどにみる香が好きだ。恋焦がれて仕方がない。  今すぐにでも連れ帰ってしまいたくなる程に、彼女の全てに惹かれている。  みる香に最後想いを伝えたのは、気持ちをどうしようもなく止められなかったからだ。  だが、彼女の意外な想いを知れたことは本当に――嬉しかった。  彼女にもっと近づいて触れたい。だがそれは、記憶を消す者がする事ではない。  今までの一琉では考えられない思考であったが絶対に、みる香を汚すことはしたくなかった。  想いが通じ合っているとはいえ、これから記憶を消される彼女に忘れてしまう行為をするのは嫌だった。  みる香との最後のやりとりを何度も思い出していた。  彼女は最後、覚悟を決めた様子で一琉の背中を押してくれた。  記憶の消去を彼女が知っていた事は予想外だった。  最終的に一琉に残っていた思いは、記憶の消去を怖くないと強がっている彼女を早く解放してあげたいという気持ちと、まだ彼女と少しでも共にいたいという矛盾した感情だった。
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