第四十四話『情』

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 春休みが終わると桜が舞う中、朝の登校をする。  道端に落ちた桜の花びらは可愛らしく桜色の絨毯を作り上げ、その道を歩くのが心地良い。  桜が消える前にもう少し思い出を残したかった気持ちもあったが友達がいる今、来年以降だってそれは叶う筈だ。焦る必要はないと思い直す。  そしてそう思える事が嬉しかった。  しかしまたもや不思議なのは、なぜ十六年も友達がいなかったのに、突然去年から友達を作ることができたのだろう。  みる香の致命的なコミュ障も、去年突然消えたのだ。いや、そうであれば何もおかしな点はないのではなかろうか。 (運よく、コミュ障が消えてそれで檸檬ちゃんと仲良くなったんだった)  そうそうと去年の記憶を思い出す。  檸檬とは意地悪な男に揶揄われた所を救われて仲良くなったのだ。  意地悪な男の発言があまりにも失礼で、みる香は気がつけば檸檬の前でも言葉を発することができていた。 (あの男、今思えばナイスだったんじゃ……?)  しかし奇妙な話で、その意地悪な男が誰であったか思い出せずにいた。  細田(ささだ)であった気もするし羽時(わじ)であった気もする。いや、当基(とうもと)だったろうか……。 (まあ、そんな事どうでもいいか)  そう思い直すとクラス表の用紙を受け取り、クラスを確認した。どうやら今年もC組のようだ。  なんと運の良いことに檸檬と颯良々、莉唯も同じクラスだ。  星蘭子と伶菜は二人揃ってA組だった。離れてしまったが、休み時間や放課後はA組に遊びに行くのも楽しいかもしれない。  そう思っているとみる香の視界をとある人物が通り過ぎる。それは久々原だった。  久々原とは去年一度だけ紅茶巡りに行った事があった。告白をされたが断り、期待させてしまった罪悪感でしばらく落ち込んでいたのだが誰かの存在で励まされた気がする。  しかしその辺はあまり覚えてはいない。  みる香は久々原と会話をする事はなく、彼もみる香に視線だけ向けてすぐ目の前からいなくなった。彼の事は好きでも嫌いでもない。恋愛は、みる香にまだ早いのだ。 (あれ、そうだっけ?)  恋をする気持ちが本当にまだ分からないのかどうか何故かそんな事に思考を巡らせる。初恋はまだだ。そんな記憶などないし経験もない。  なのになぜこんな事で頭を働かせているのだろう。  自分は今、何だかおかしい。予鈴の音でみる香は思考を停止させた。  急いで新しい教室へ向かうと慣れ親しんだ大切な友達がみる香を出迎えてくれた。
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