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最終話『バッド君と私』
屋上の扉を開けると冷たい風がみる香の身体に降りかかってきた。
屋上にはまだ寒いこの時期に立ち入る生徒が少ない。
しかしみる香はこの時期の屋上が何故か初めてである気がしなかった。
(誰かいる)
屋上に入った先に二人、学生服を着た男女が立っていた。
二人はみる香の方を振り向き、一人の男が片手を上げる。廊下ですれ違ったことはあるかもしれないが、この二人に見覚えはなかった。
そのまま足を進めて二人に言葉が届く距離まで辿り着くとみる香は先程の手紙を出して声を発した。
「この手紙、二人が置いたの?」
「うん、俺が書いたんだ、久しぶりだね」
「え?」
男は不思議な言葉を言ってくる。まるで久しぶりに会ったかのような発言にみる香は首を傾げる。以前、どこかで関わったことでもあるのだろうか。
すると男の横にいた女の子はみる香に一歩近づき「呼び出してごめんなさいね」と謝罪の言葉を口にした。
この女子学生と会話をしたのは初めてだったが何だか妙に親近感があった。
「それは良いけど、何の用なの? 私たち、初めて話すよね?」
男女が待っていたという事は告白などではなさそうだ。
みる香は不思議な気持ちで率直にそう問いかけると男は急に笑い出してこんな一言を告げてきた。
「呼び出したのは俺が君に会いたかったからだよ、大好きなみる香ちゃんに」
「ええっ!?」
突然の好きだという発言にみる香は動揺する。
しかし動揺するよりも目の前の男が爽やかな顔をして下の名前をさらりと呼んできた事に疑問を向けるべきだ。
みる香は何でと問いかけるが男は「ちょっと待ってね」と笑顔を向けながら隣の女子学生に目を向けた。
「もうできそう?」
(???)
さっきから何を言っているのだろう。この二人に段々と違和感が膨らみ始めてくる。
すると唐突に女子学生は「できるわ」と声を出し、みる香の正面まで足を動かした。
そうして驚くみる香を前に「何も悪い事はないから、安心してね」と口に出す。
みる香は言葉を発しようとしたが、彼女が自分の目の前に手をかざしてきた事に驚き、開きかけた口を思わず閉じた。一体何をしているのだろう。
黙って正面で手をかざしてくる女子学生を見つめているとふと視線を感じ、目を向ける。男の方からだった。男は、どこか切なそうにこちらを見つめ、目が合うと柔らかに笑いかけてきた。
そんな表情にどこか――――寂しさを感じる。
すると突然光が放たれ、視線を向けるとそれは女子学生の手元から放出されているものだった。彼女の放つ光はなぜかみる香に向けられている。
しかしなぜか、避けようとは思わなかった。怖いとも思わなかった。何故だろうか……先程から疑問ばかりが生じている気がする。
みる香はそのまま彼女の光に呑まれ、次第に眩しくて目を開けられなくなってくる。女子学生は光を浴びせ続けながら小さく何かを呟いた。
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