オードボローロボドーオ?

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――――ダイ1マク  世間を騒がず大泥棒が、またも世間を騒がす! 「フフ、バレてませんネ。マア、トーゼンですがネ。フフフ」  今度のターゲットは表で偽善、裏で悪行三昧の某有名政治家だ!  大泥棒は、その就眠中を狙って既に侵入していた。  気づかずぶつかりそうになる掃除中のルンバくらいに音も気配もなく、予めマッピング済みの邸宅内で、警備が最も手薄なルートを易々と抜けた先、 「ココですネ。フフ、ネジがナりますナァ♪」  巨大な金庫の前にスタンドアローンしていた。  大泥棒は手際よく、金庫のセキュリティを次々に解除していく。 「フムフム。アー、ザンネン!ココがイカンネ、ココガ!ココのブブンだけナーンデキューシキのヤツツカうカナー。アー、モウ、テンションサがるワー」  落胆する大泥棒に、だが手抜かりなし。カチャン、とその最後にしてもっとも複雑難解なセキュリティすらも鮮やかに破ってみせた。  突如、けたたましいサイレンが鳴り響く!邸宅内が一気に騒がしくなった! 「オー、コレですヨ、コレ!ヨカっタ。コレだけはちゃんとソナわっていてくれテ。アー、イイワー!メッチャ、タギるワー!」  自身を追い詰めるセキュリティがそんなに嬉しいのか?  全身ではしゃぐ大泥棒は破った金庫の中の―― 「オ、コレがいいですネ。ジツにウツクしい!」  ――隅の一箇所。そこに埋め込まれたネジを一本だけ手際よく抜き取った。それを大事そうに、文字通りに閉まって金庫を出る。  と、そこには―― 「ホホウ!コレはコレは、ミナさんおソロいデ!」 「予告メールを送るなど、相変わらずなめ腐りやがって!このポンコツ泥棒め!今日こそ逮捕してくれる!」 「やーい、ポンコツ!」「ポンコツ小僧!」「ポンコツーヌ三世に名前を変えろー!」 「チョ――、ダレがポンコツですカ、ダレガ!?チガイマスゥ~、ポンコツなんかじゃアりませン~」  立ち塞がる刑事や警官たち。彼らの安い挑発に対して、ムキになった中学生みたいに言い返す大泥棒。 「それ今だ!捕まえろ!」  刑事の号令で取り囲む警官たちが一斉に飛び掛かった――、が、 「フフン♪」  と、大怪盗は得意げにその四肢体躯を巧みに自在に変形させ、迫りくるポリスメンを軽々往なしていく。  そして、室内にある大窓の縁の一つに立つと、 「サラバダ、アケチクン!ワ――ッハッハァ――ッ!」  丁寧に開錠し、三階にも関わらず、ためらいなく下へと飛び去っていった。  刑事が素早く無線で指示を飛ばす。外で待機していた数機の対泥棒用ドローンが一斉に捕獲へと飛び集まってきた。 「フン、マータオナじテかヨ。ケーサツもゲイがないナァ」  呆れる大泥棒。  しかしなんと!集まったドローンたちが変形合体!  大泥棒と同じ背丈の人型機体へとその姿を変えたのだ! 「フハハハハッ!どうだ!?驚け慄け笑い泣け!超合金合体ドローンロボ!その名も――、デカッスだ!」  邸宅の窓から顔を出した刑事の高笑いがやかましく響く。  だが、大泥棒はそれにも動じず不敵に笑う。 「フッ、こんなモンでこのオードボローサマがツカマ――、ッ!?」  合体したドローンロボが目にも留まらぬ速度で放った無数のプラズマ弾を難なく回避し切った、瞬間だった。  いつの間にか急迫していたデカッスが至近距離でその拳を放ってきた!  一撃をもろにくらう大泥棒!  そのまま遠く彼方へと殴り飛ばされてしまった。 「しまった、やりすぎたか……」  実はデカッス用のコントローラーを握っていた刑事。操縦の不手際による捕獲ミスに嘆息を漏らす。 「ま、いっか。おい、お前ら」  と、近くの部下たちに対し、殺気を込めたアイコンタクトで黙認するように強要する。  その部下たちは困ったようにただ苦笑いで頷くしかなかった……。 ――――ダイ2マク 「……ォワアアァァァァァ――――――」  と、飛ばされる大泥棒。  その落下地点には――、およよ?なんと!一人の少年の姿が!? 「オイ、アブネェ!コゾー、ヨケロ!バカ!シぬゾ、バカ!」  なんとも口汚い注意喚起。  だがしかし、少年はゲームに夢中で全く気づかない。  ああ、仕方ない、ぶつかるか。ま、死んだらメンゴメンゴ、ってことで。と、大泥棒が潔く少年とごっちんこ。はい、痛いやつぅ!  起き上がった大泥棒が透かさず先程盗んだネジを確認する。  の中から取り出し、その無事に安堵の笑み。再び大事そうにその中へと仕舞った、途端に、 「チクショウ!ヌスみにはセイコウしたとはいえ、このオードボローサマがドウシュにマけるとは、ナンたるクツジョク!キー、クヤシイィィィィ!」  大泥棒が忌々し気に両腕をブンブンと振りまわした。  そこへ、 「あの、そろそろ退いてくれませんか?」と、自身の下から声が聞こえた。 「――ン?ア、オット、これはシツレイ」と出てきた少年に大泥棒が詫びる。てか、良く生きてるなぁ。大泥棒も少年の頑丈さに感嘆のご様子。  しかし一方、少年は大泥棒なぞに興味なしとばかりに手の中の携帯ゲーム機を終始見つめていた。  その様子に、大泥棒がムッとする。  世間を騒がし天下に名を馳せた自分よりもゲームって!ったく、今時のやつはどうなってんだ!?バカヤロー!と、批難の眼差しを少年――、の心を奪うゲーム機にぶつけた。  ゲーム機も軽く身震いしたらしく、微振動する。 「ン?って、ナンダ、コワれているじゃないカ?」 「今の衝撃で、壊れた」 「そ、それはタイヘンすまないことをモウしワケございませン!」 「いや、いいよ別に。いいんだ」  なにやら少年が醸し出す明らかな虚無感。大泥棒が眉根を寄せる。 「コゾー、どうしタ?ナニかあったのカ?」  大泥棒が興味本位で尋ねる。  数秒の沈黙の後、少年がぽつぽつと語り出す。  聞けば、少年は二度も家族に捨てられたという。  実親に捨てられた後、養子としてある大富豪に迎え入れられたが、その矢先、お前は大富豪の跡取りには相応しくないざます!と罵倒され、継承不適合の烙印を養父母に押されて追い出されたという。  それが二日前とのこと。  それからは与えられた金銭でゲームを買い、時間を適当に潰しながら街を徘徊していたらしい。 「ハハ、ナーンダ」  大泥棒が得意げに笑う。 「そんなことカ。ならハナシはハヤいナ」  その笑みを、少年は空虚な目のままで見上げた。 「をヌスめばイイ!アア、ナントカンタンなことだろウ?」  まったく理解できない、と少年も読者も心でそう思ったに違いない。  しかし!大泥棒には余程の自信と確信があるのだろう。 「マ、このオードボローサマにマカせなさいヨ!ヨシ!そうとキまれば、マズはイメトレからダナ!ハァ――ッハッハッハァ――!」  少年も読者も無視して、大泥棒が天高く伸ばした鼻先で高らかに笑うのだから。「ハァ――ッハッハッハ――」 「おい、てめぇ!さっきから邪魔だって言ってんだろ?そんなとこに突っ立って、通行の邪魔だぞ!いい加減にしろ!」 「――ァア、ソッカ、これはモウしワケすみまセン」  その野太い注意の声に、大泥棒が少年の肩を押してそそくさと道を空けた。  なんともまあ、しまらない感じであるが、果たして……。 ――――ダイ3マク 「ヨッシャ、ここまではジュンチョウだナ!マサにケイカクドオリ!」 「ねぇ、なんで予告メールなんて送んのさ?」 「エ?イヤ、ダッテ、そっちのホーがかっこよくネ?ッテ、このチテキでステキなズノーもイってるシ」 「ふーん。で、おかげでこんな面倒な感じになってるわけだ」 「エッ?エッ?ナニそのタイド?エッ?ナンナン、マジそのタイドハ?エッ?こっちはセッカクオマエのタメにカゾクヌスんでやろーとしテル、ってのにサ。アーアァ、ナンカもうやるキなくなっちゃったナー、モー」 「いや、頼んでなかったよね?自分で言ってひとりで盛り上がって勝手に決定してたよね?ね?」 「アーハイハイ、あーいえばこういうネー、ハイハイハァーイ」 「……腹立つなぁ、このポンコツ」 「ポンコ――、オマエ!イマ、イってはいけないことヲ――、ウォッ!?ッテ、ナニユカイなカイワチュウにぶっパナしてんダ!?アブねーダロ!?」 「ほらほら~、集中しないと負けちゃうよ?」  少年を捨てた大富豪宅に侵入した大泥棒と少年。  計画通り、警備が手薄な天上からの侵入経路を順調に進んで、メインセキュリティルームへと到着。  さて、後はその扉のセキュリティを破って、いよいよメインシステム制圧か――、というところで、予告メールによって待ち構えていた警察一行が廊下の両側から挟み撃ち。  以前に大泥棒が敗北を喫したあの刑事も、既に超合金合体済みのデカッスと共に破ったセキュリティルームの扉から、待ってました!とばかりに登場!  中央制御室を前に、だだっ広い廊下の真ん中。警官たちによる人垣の中心。  大泥棒と少年は、大泥棒にとって苦い記憶の相手であるドローンロボ・デカッス、そして、その操縦者であるあの刑事と対峙していた。  見ると、少年も何やらコントローラーらしきものを握っている。  刑事がそれに気づいて、鼻を鳴らした。 「ほほう?以前の敗北からスタンドアローンでは勝てないと踏んで、操縦者を雇ったのか。しかしまあ、こんな年端も行かぬ少年をその操縦者に選ぶとはな。なんだ?天才プロゲーマーか?有名ゲーム配信者か?ま、いい。誰を連れてこようが、俺には勝てんよ」 「フン、ホザイテロ!イマにコイツとのゴールデンバッテリーでブっとばしてくれるワ!」  大泥棒が鋭いアイコンタクトを送った。少年が力強く頷く。  カァーン!今まさに、闘いのゴングが鳴った! 「いけ、デカッス!」  先手はデカッス。  両手の先に備わる砲口から超速のプラズマ弾を乱発!  大泥棒がそれらをなんなく回避!  自身に備わる自動回避機能が発動しているのである。  しかも、それらを躱す合間に負けじと放ち返しているではないか!?  ――石を! 「――ッテ、カてるカ!?ナンデ、イシ!?イシなんかぶつけてカてるわきゃねぇダロ!?」  大泥棒がものすごい勢いでキレた。  それに刑事の操縦の手も思わず止まってしまう。 「いや、予算なかったから」  と少年が、は?当然でしょ?みたいな半笑い顔で返したので、 「マ、そうだよネ!?ナイよネ、ヨサン!ウン、ワカル!ワカルワ~。ダッテ、ゲームとかメシとかムケーカクにツカっちゃったもんネ!シカモ、そのノコりスクないヨサンでのホーしちゃったもんネ!ソラモウ、イシヒロうしかないワー。テンネンシゲンカツヨウしてSDGsするっきゃないワー」  大泥棒が皮肉を捲し立て反論。  しかし、またも少年が一笑に伏した。 「てか、自分から言い出しておいてほとんど金持ってないのが悪いんでしょ?なんで泥棒なのに金ないわけ?はー、これだから貧乏泥棒はなー」 「イヤ、ジブンカネとかそんなゲスイのヒツヨーないんデ!ジブンキュウキョクセイメイタイミニマリストなんデ!」 「ちょちょちょい、お二人さん。言い争ってる場合?いっちゃうよ?デカッス、やっちゃうよ?」  ――あ、そうだった。と大泥棒と少年は咳払いして気を取り直し、再度アイコンタクトで頷き合った。  再びデカッスがプラズマ弾を乱射!  今度は、じわりじわりとゆっくり間合いを詰めてくる。  大泥棒はまたもそれらをスマートに躱しながら、しかし、こちらもそれに応えるようにじわりじわりと肉薄していく。  そして、お互いの拳が届く距離になった瞬間―― 「嫌なこと思い出させてやるよ!」  刑事が素早くコントローラーを弾いた。  デカッスの引手も見えない音速の右ストレートが飛ぶ!  ――と同時、その左腕は次段策としてアッパーカットのモーションを取っていた。 「――イマダ!」  大泥棒が叫ぶ!  少年がその手のコントローラーを――、刑事目掛けて思い切り投げつけた。  それが刑事の顔面を直撃! 「あのクツジョクをカテに、もうイメトレはスんでいるのダ」  デカッスの挙動が大きくブレた。  右ストレートの起動が逸れる。  その隙を逃さない大泥棒は、 「サア、カリたモンはカエすゼ!トッツァ~ン!」  深く腰を落とすと、レスリング選手の如くデカッスの片足に抱き着いた。そのままデカッスを思い切り引き倒す。  衝撃でデカッス胴体の接続部が破損し、四肢がパージ!  お見事!機能停止となったデカッスが地に伸びたぁ!!! 「ヨッシャ、カったゾ!ワァ――ッハッハッハァ――!オイ、ミたかコゾー!ヤッタゾ、オイ!」  と、雪辱を果たして大はしゃぎの大泥棒が少年の方へ振り返ると―― 「ちょ、分かった!もう降参、降参すっから!イテッ、だか、も、やめ――」 「…………」  少年はさっき大泥棒が連発した石ころを、刑事へと、拾っては投げ拾っては投げつけるを執拗に繰り返していた。  それに思わずたじろいでしまう大泥棒。 「チョ、モウカったカラ!ダイジョブだカラ!ダカラ、モウそのヘンにしてあげなさいヨ。アトはコッチでシバリりつけとくカラ、ネ?」  まるでお母さんみたいに諭しながら、大泥棒が手際よく刑事と刑事の命令でずっと待機していた警官数名を捻じ伏せて縛り上げると、 「――サテ。ソンジャ、ヌスみにイこうカ?」 「……うん!」  今度こそ、大泥棒と少年は中央制御室へ―― ――――ダイ4マク  ――数日後。  大泥棒が懇意にする情報屋の下に、一通のメールが届いた。  それは、あの少年からのものだった。 『ホラ、テンソウしたゾ』  傍のモニターから、情報屋のぶっきらぼうな機械音声がそう伝える。  タブレット端末でそれを開く。  その大泥棒の顔に思わず笑みがこぼれてしまう、が―― 【拝啓、大泥棒さんへ。  お久しぶりです。あの時は大変お世話になりました。ありがとうございました。  おかげさまで、乗っ取った大富豪の地位に胡坐をかいて、今も新しい家族みんなで楽しく暮らせています。  まさか、自分で新しい家族を準備して、しかも大富豪のを盗んで乗っ取ることになるなんて、ぶっちゃけそんなん上手くいくわけなくね?と、計画を聞いたあの時の自分は今の自分を微塵も想像できていませんでした。  ですが、二人で家族を集めてみんなで変装して、市役所でやらやらのを行って下準備も完了し(あ、対デカッス用のイメトレもやりましたね)、後はあの家だけだと言い出した時には、もしかしてこれいけんじゃね?いや、いけんのか?これ?と、半信半疑まで気持ちも高ぶり、いよいよ侵入!予告メールの所為(もう、予告メール出すのやめた方がいいよ、マジで)で待ち構えていたガードマンや追加されていたセキュリティを難なく搔い潜り、そして、デカッスとの死闘?を経て、見事メインセキュリティ制圧!さすが大泥棒!と、今ではその手腕に尊敬の念すら抱いています。  ほんとにほんとに、お世話になりました。  自分の人生の中における最大の興奮と最高の幸福をありがとうございました。  そして、今だから分かります。  大泥棒さんが盗んでくれたのはだったんだ、と。  本当にありがとうございました。  近くを通りかかった際には、ぜひ我が家に立ち寄ってください。家族一同、心からお持ちしています。  ――追伸  大泥棒さんの自室にあった机の鍵付きの引き出しが開けっ放しだったから、何が入ってんだろうなぁ、って見てみたら、何に使うのかよく分からない形がバラバラのネジが大量に溜まっていたのを見つけて、侵入決行日の朝がちょうど燃えないゴミの日だったので、自分が纏めて捨てておきました。私からのささやかなお礼と思って、どうぞお受け取りください。  あぁ、それと。自分のこと『オードボロー』って呼び間違えているの、早く直した方がいいですよ。正しくは『オードロボー』ですから、一刻も早く直してくださいね。ぶっちゃけ恥ずいので。恥ずいので!  それでは、失礼いたします。敬具】  読み終えた大泥棒のその顔が見る見るうちに鬼の形相へと変わっていき、そのまま勢いよくタブレット端末を膝で叩き割ると、 「アンンンノッ、クソガキガァァァァァァァァァ――――――ッ!!!」  と、憤怒に絶叫した。  都市部にあって、空の開けた屋上。  そこから情報屋のガラガラという機械音声の笑い声がモニター越しに鳴り響き、その階下では、パトカーのけたたましいサイレン音が次々と集まり出していた。
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