入られちゃいました……

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  「多分、泥棒に入られたんだと思います」 「お訊ねしたいことや書いていただきたい書類もありますので入りますね」  今朝、食卓の上にあった夫と息子の財布がなくなっていることに気づいたという話をする。警察官からのどんな財布で幾ら入っていたのかなどの質問に答えた。 「あー、奥さん。〈忍び込み〉ですね。網戸だけになってたんでしょ? そこの網戸を開けてサッと入って、財布だけ取って出ていったんだと思いますよ」 「忍び込み?」 「家の人が留守中に入るのが〈空き巣〉で、〈居空(いあ)き〉は在宅中に入られるもので、今回のような寝ている間に入るのを〈忍び込み〉と呼んでます。窓が開いてて、窓のすぐ側のテーブルに財布、それじゃあ盗っていいですよと言ってるのと同じですよ、奥さん」 「はあ、三階なんで……」 「奥さん、五階建てでエレベーターもないこういう古い集合住宅ですしね、ベランダ側が一続きになっていることもあって、屋上から降りて五階、四階……と一戸一戸開かないか見ながら降りていく。このアパート四十戸のうち、奥さんとこみたいに不用心なところからサッと盗って、数分で、五万ほど。気づいていないお宅もあるだろうし、一棟回って無理せずいくらかになる」 「ベランダの対面にも同じようなアパートがあるので、見つかりそうじゃないですか」 「真夜中でしょ。奥さん何時に寝ました?」 「十二時半過ぎてたと思います」 「そんな時間に起きてたとしても、部屋の中が見えないようにカーテン閉めている人がほとんどでしょ。それにね、このベランダは柵になっている部分が少なくてコンクリートの幅が大きいですから、隠れやすいですしね」 「はあ」  警察官はベランダに出て説明をしてくれる。私はそんな話を聞きたいわけではなく、盗られた財布についてが知りたかった。仕方なく洗濯物が揺れるベランダを見渡す。干した時には気づかなかったが、いくつかある植木鉢の一つと壁の間に何か挟まっている。 「あっ、ここに。夫の札入れと息子の財布がありました」
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