入られちゃいました……

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入られちゃいました……

「あのー、泥棒に入られたみたいです」  確かそんな電話を交番にしたような覚えがある。  十年以上前の夏、朝六時頃、私はいつも通り夫と息子の弁当を詰めながら朝食の準備をしていた。 「なあ、俺の財布がないんやけど?」 「えっ?」 「昨日の夜、ここに財布置いて寝たのに、これしかない」  そう言いながら食卓の上を指さし、小銭入れを見せる。札入れがないと言っているのだ。 「背広のポケットか鞄の中じゃないの?」 「探したけどない。夕べ確かにここに置いたんだ」 「私は知らない。触ってないし……、それよりご飯食べないと、トイレの時間がなくなっちゃうよ?」  ブツブツ言いながらも夫は朝食を食べ始めた。私は朝練だという息子を起こす。 「部活だって言ったじゃない。起こせって。ほら、起きて。間に合わなくなるよ」  慌てることがあまりない息子はゆっくりと半身を起こす。ここまで見届けないとまた寝てしまう。この子のいつも通りの光景だった。 「昨日の夜、渡した部費、忘れないで払うんやよ」 「オラの財布どこ?」  物心ついた頃から自分のことをオラと呼ぶ息子。さすがに高校生なのでやめて欲しいが、他人様(ひとさま)になんと思われようが気にしないのだから変わりようもない。 「どこ? じゃないわよ。昨日そこに置いて寝たでしょ」 「ないから言ってる」 「はーっ? その辺に落ちてるんじゃ?」  食卓の下を見るが夫の革の札入れも息子の二つ折りのポリエステルの財布も落ちてはいない。 「やっぱり、俺の札ばさみとこいつの財布が盗られたに違いない」  警察に電話しろと夫は言い残し仕事に出かけて行った。
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