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「離れてみるつもり……というか、すでに結構離れて見てて、近くに戻るのはやめようってなった。だから終わりにする」
「おぉー、決めたんだね。じゃあ、最後に乾杯しとく? サンの新たな生活にかんぱーい」
最後。楽しい夜はもうすぐ終わりなのだと察した。楽しかった。たくさん悩んだことに対して、晴れ晴れした気持ちで答えを出せた。
差し出されたワイングラスを受け取って「乾杯」とぶつける。
「ルナの新しい生活にも乾杯かな?」
「そうだ。さっさと部屋探さないと。かんぱい!」
ルナの明るい声が部屋に響いて、顔を見合わせて笑った。
カーテンの隙間から朝日が覗いていた。
「またね、サン。いつか味噌ラーメンも食べよう。塩派のサンもおいしいってなりそうなところ、知ってるから」
「うん、楽しみにしてる。またね」
駅まで行こうとして、ここでいいと言われたので玄関からルナを見送った。またねと言ったわりに連絡先の交換はしていない。これきりで、二度と会うことはないかもしれない。
それでも、またどこかで偶然会えたらそのときは友達になりたいと思った。今はたぶん、もう会わないだろうと打ち明けたことが残っていてちょっと気恥ずかしさがある。
それが消えたら、いつか。約束は、また会えるまでずっと有効のはずだ。
カーテンを開ければ、朝日が眩しい。
目を細めて欠伸をしていると、ポケットで震えたスマホ。通知には〈忙しくて残業コースからの上司に飲み会連れ出されて、そのまま潰れてた〉と表示された。朝早くに連絡が来るあたり、ほんとのことなのかもしれない。だけど、連絡が来たところで遅い。
約束を破って、すぐに連絡をしなかったことを謝ろうという気持ちはないのね、と冷めた気持ちになった。
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