ラーメンは塩派

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 チューハイは今飲んだのが最後だ。あとは冷蔵庫の横に置いてあるワインくらいしか見当たらない。わたしはワインのことはよくわからないけど、店員さんから勧められるがまま買ったやつ。いつも店員さんお勧めのものを買えば彼が喜んでくれて、間違いなかった。  これを開けちゃおうか。いやでも、わたしが飲めるのかわからないしやめておこう。普段は合わせて飲んでいるだけでおいしさは全然わかってない。  メイクした顔で外に出られる服装でもある。この淀んだ空間から抜け出したら少しはすっきりするかもしれない。コンビニでラーメンとサワーでも買って来よう。袋麺を鍋で作りたい気分。  こんな時間に出かけたことを話したら心配してくれるかな、なんて浮かんだ淡い期待に自分で笑ってしまった。そのくらいで心配してくれるなら、今頃一緒に過ごしてくれているはずだ。本当にもう、いい加減にしないとな。  スマホだけ持って外へ出た。夜はもう半袖だけでは肌寒い。カーディガンでも羽織れば良かった。  一人の夜道。大通りに面したアパートは、駅からは遠いものの利便性は抜群。こういうところに2人暮らしたら楽しそうだねって、言ってたんだけど。あれは何だったんだろう、幻かな。  だんだんと泣きたくなって空を仰ぐと、雲ひとつない闇空に三日月が浮かんでいた。空を見上げたのは久しぶりだ。思い返せば、最近はうつむくことが多かった。  全部あの男のせいだ。そして、そんな人と縁を切れなかったわたしのせい。  ものわかりのいい女を演じていれば、いつかは笑い合っていた頃に戻れると信じたかった。そんなはずない。わかっていても、わかりたくなかった。現実を受け入れてひとりになるのが怖かったから。  信号を渡って、コンビニまでもう少しというところで「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですけど」と声をかけられた。 「何ですか?」
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