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深夜に声かけてくるってどんな用事だろうと頭を巡らせる。何か月か前にあった宗教の勧誘くらいしか思いつかないけど、あれは家まで来た。アンケート回答をお願いしますって頼まれて正直に答えてたら、だんだんと雲行きが怪しくなっていった。終わらせ方がわからなくてどうにかお帰りいただいたけど、もしやこんなところでもあるのかな。
「ネットカフェに行きたくて、コンビニの店員さんにはここから見えるからわかるって言われて……でも何もなさそうで。地図的にはそうなんですけど、このまま、まっすぐで合ってますか?」
「ああ、そこのネカフェですね」
道を訊ねたかったのか、そりゃそうだ。今この辺を歩いてる人はきっとわたしくらいだもんね。ものすごく納得した。首だけを動かして振り向くと、この前まではあった看板が見えなくなっていた。そういえば。
「……まっすぐで合ってるんですけど、先週で閉店したんですよ」
「え!? あー……この辺だと、始発までいられるのそこくらいしか、ない、ですよね……」
だんだんと声が弱弱しくなっていく。髪を耳にかけて苦笑いするその人に「たぶんそうだと思います」と答えたわたしは、別に何も悪くないのに何だかすみませんという気持ちになった。
「居酒屋さんだったらこの辺たくさんありますよ。ファミレスとか?」
「ファミレスにはさっきまでいたので……その、居酒屋さん、行ってみます。ありがとうございました」
頭を下げて、キャリーケースを引きずりながら去っていく。居酒屋さんなんて言ってしまったものの、ひとりで長時間いたら絡まれるんじゃないだろうか。キャリーケースを持ってくのも大変そうだ。かといって、この辺にホテルはないし、タクシーに乗って行くにもそれなりの額になってしまうだろう。始発までの時間をつぶすのに適していそうな場所がわからなかった。
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