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……うちだったら、すぐ近くにある。始発までの少しの時間くらい、いてもらっても構わない。たぶん、ちょっと、ううん、だいぶ。普段なら考えつかないようなことだった。これが俗に言う、お酒の勢いというやつなのかもしれない。
「あの、すみません!」
すぐに追いかけて口を開いた。
「はい?」
「うちで良かったら、始発まで使ってください。これからコンビニ行くので、それは付き合ってもらうことになりますけど。どうですか?」
小花柄のワンピースを着たその人は、きょとんとした顔をする。まつげがゆっくり上下するのを見つめていると、ハッとしたように頭が左右に揺れた。
「いや、大丈夫です。悪いですよそんな……」
「あ、怪しい者じゃないですよ! 勧誘とかじゃないです」
否定しておかないと、この場合はわたしが怪しいに決まってる。こんなことを考えられるくらいだから意外と酔ってないのだろうか。酔っている感覚になるまで飲んだことがなかったからよくわからない。
「そこは心配してなくて、その……どう見られてるかわからないけど自分が性別的には男になるので、そちらの危険性と言いますか……」
「危ないんですか?」
「危なくはないです」
きっぱりと言い切ってくれた。良かった。そこを聞いてくれるあたり、この人はいい人なんだろうなあと思った。ただ、人を見る目がない自信はあるので、これから後悔するかもしれないけど。そのときは自分の行いが招いたのだから諦める他ない。
「じゃあ良いです。まずはコンビニ、一緒に行ってください」
「普段からお酒よく飲まれるんですか?」
ん? と首を傾げる。一緒に行ってくださいからの話の流れでなぜそれを訊かれたんだ。お酒を飲んだとは一言も言ってないのに。飲んでそうってことかな。
「うーん、あんまり飲まないです。たまに飲むくらいで」
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