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「なんか、どんなに嫌なやつでも、フィルターを通して都合良く見ちゃってたな。わかってたのに、優しかった頃とか素敵だなって思ったこととかを通してみると嫌な部分が薄れてたの。いい部分ばっかり見えてたから、わたしも合わせられるように頑張ろうとか思っちゃってた」
友達に相談しては早く別れなと言われて、心配してくれてのことだとわかっていても、うなずけずにいた。自分の踏ん切りがつかなかったし、そう言ってほしくて話しているわけでもなかった。いつからか友達に彼氏のことを話題に出せなくなっていた。
ルナはわたしと彼氏の詳しい事情は知らない。今は何を言っても言われても、次に会うこともなさそう。そんな思いがあったから、正直な気持ちが口をついて出た。
「……新しいフィルターにしたらどう見えた?」
「最低な人に見える。約束破っても連絡すらくれない、悪いとも思ってない。わたしはわたしで、そんな相手のどこに合わせようとしてたんだろうって感じ」
お酒を飲んでただでさえ顔が熱かったのに、さらに目頭が熱くなる。わかっていたことを認めてしまえば、もう後戻りはできない。好き、が好きだったに変わってしまった。
「嫌な部分が薄れなくなった?」
「むしろ濃くなった。濃くなって、この人にとってわたしは“雑に扱っても良い人”として見られてるんだなって気づいた」
言葉にするとすっきりして、鼻を啜る。思っていたより感情が静かだ。もっと怒りとか悲しみとか湧くかと思ったけど、そういうのはとっくに通り越していたのかもしれない。
ルナがテレビの前にあるティッシュに気づいて差し出してくれた。涙を拭って、鼻も拭いてから顔を上げる。
「嫌な部分ばっかりが見えてきたら、離れてみるのも良いと思う。また見方が変わるでしょ?」
優しく顔をのぞき込まれて、そうだねとうなずいた。もう心は決まった。あとはそれを伝えるだけだ。
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