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「あたしに、桐生くんのピアノ、聴かせてくれない?」 「え、今から?」 「うん、今から」 「そしたら、家まで来てくれれば」  今僕が自由に弾けるピアノは自分の部屋にあるピアノだけだ。それでもいいか確認したら楠田さんはすぐに縦に頷いた。 「分かった」  頷いた楠田さんを見て僕もカバンを肩にかける。 「それで、もうひとつって、何?」 「これは単純に質問」  隣を歩いていた彼女はタンと階段を一段先に降りて振り返る。 「何で、あたしなの?」  視線が絡む。 「……ひとりだけ、髪色を褒めてくれたから」  僕の言葉に、楠田さんは僅かに目を見開いた後「そっか」とまなじりを三日月形に弛めた。  そうしてそのまま、僕らは家に向かった。
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