3/6
前へ
/24ページ
次へ
 家についてローファーを脱いだ僕の後ろで楠田さんは「おじゃまします」と言った。 「これ使う?」  その辺に置いてあったスリッパを差し出す。 「ありがとう」  楠田さんが靴を揃えるためにしゃがみこんだ時、リビングのドアが開いて母親が顔を出した。僕が女の子を連れてきたことに驚いて「まぁ」と声に出していた。 「お母さん?」 「そう」 「おじゃまします」  もう一度彼女はぺこりとお辞儀した。今日はふたつにくくっている髪が揺れた。 「可愛いお嬢さんね」  確かに楠田さんは可愛い。お茶目でリーダーシップもあって、誰からも好かれるような“委員長”という言葉を身に纏っている人。 「ピアノ聴きたいって言うから連れてきた」 「あらそう。前までのあなただったらこんな風に話してくれなかったわよ」  そうかも。最近、照れ臭いとかそういうの、感じない。 「大人になったのね」  大人。  そうか、僕は大人になったのか。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加