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家についてローファーを脱いだ僕の後ろで楠田さんは「おじゃまします」と言った。
「これ使う?」
その辺に置いてあったスリッパを差し出す。
「ありがとう」
楠田さんが靴を揃えるためにしゃがみこんだ時、リビングのドアが開いて母親が顔を出した。僕が女の子を連れてきたことに驚いて「まぁ」と声に出していた。
「お母さん?」
「そう」
「おじゃまします」
もう一度彼女はぺこりとお辞儀した。今日はふたつにくくっている髪が揺れた。
「可愛いお嬢さんね」
確かに楠田さんは可愛い。お茶目でリーダーシップもあって、誰からも好かれるような“委員長”という言葉を身に纏っている人。
「ピアノ聴きたいって言うから連れてきた」
「あらそう。前までのあなただったらこんな風に話してくれなかったわよ」
そうかも。最近、照れ臭いとかそういうの、感じない。
「大人になったのね」
大人。
そうか、僕は大人になったのか。
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