5/6
前へ
/24ページ
次へ
 弾いた。  でも、今までと何か違った。何が?   答えに手を伸ばそうとしても、靄がかかって見えなくなってしまう。  もどかしい、はずだった。でも、今の僕にとってはそれすらどうでも良かった。  前より上手くたって下手だって、構わない。  だって僕はもう、 「すごい……」 「え?」  隣から声がした。楠田さんが真ん丸の目をキラキラさせて、僕を見ていた。  その煌めきが、僕を捕らえた刹那。  断片的な記憶。ピアノを弾く僕。父の膝の上で妹が楽しそうに手を叩きながら鼻歌を歌う。母親が僕に尋ねる。 『あなたのゆめは、なに?』 『ぼくのゆめは、おんがくで、だれかを笑顔にすること!』  答えた僕は、笑っていた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加