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『桐生くん、上手いね』
『ピアニストになれるんじゃない?』
『進路は音大?』
『音楽で食べていくならもっと頑張らなきゃ』
『今度インタビューあるって』
『桐生さんがピアノを始めたきっかけは?』
『コンクールとかでないんですか?』
ああ。
そうだ、
そうだった。
『生き恥曝してよく生きてられるな』
ひゅう。喉が鳴る。世界が廻る。
「ごめん、楠田さん」
「桐生くん?」
「今日は、帰って」
小さく言った。楠田さんの顔は見れなかった。
いいや、違う。
僕は、自分の顔を、見せたくなかったんだ。
黙ったままピアノの前で背を向け続ける僕に楠田さんは言った。
「分かった、今日は帰るね。でも、ひとつ約束してほしいの」
「なに」
「明日、放課後、校舎の屋上に来て」
視線を感じた。楠田さんが僕を見ている。唇を開いた。何も言葉は出てこなかった。
「またあした」
楠田さんが「お邪魔しました」と母親に挨拶している声を背に――僕は布団に潜り込んだ。
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