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 黙り込んだ僕に、黒い影は甲高い音で嬉しそうに笑った。 「どんな記憶だ?」 「……別に、大したことじゃ、」  これはもしかしたら、僕が創り出している夢なのだろうか。あの出来事を忘れたいという願いが強すぎて、こんな夢を見ているのだろうか。 「大したことないなら、警察でも何でも連絡するがいい」 「ッ」 「蜘蛛が腹を空かせてる。オマエの記憶を餌にくれないのなら別のところへ行く。今、記憶の内容を私に教えるか、拒絶するか。早く決めてくれ」 「……ピアノの、コンクールの記憶」  煽られて反射的にそう答えてしまった。どうせこれは夢だ。こんなことが現実に起こる訳がない。 「よし分かった」  泥棒は慣れたように蜘蛛を放った。黒い影に「ひっ」と声を上げれば「情けないな」と笑われた。 「大丈夫だ、記憶の処理をするだけだから」  しゅる、と糸が吐き出されて僕の頭に巣をつくる。 「ピアノのコンクールの記憶――盗んでほしいのはそれで合ってるな?」  ツキンと胸の表面が傷んだ。  無視するみたいに首を大きく縦に振った。
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